今、映画の都ハリウッドが危機に瀕している。

 …と言っても、映画産業が下り坂という意味ではない。むしろ、映画産業は隆盛を極めていると言って良い。ところが、そんな好況にもかかわらず、映画スタジオは、自分のお膝元のロス近郊ではなく、カナダ、オーストラリア、イギリスといった海外にロケ地を移すようになっているのだ。

 その原因は制作費の高騰にある。米国映画協会によると、映画一本の平均制作費は5,150万ドル。それに加えて、宣伝広告費として平均2,453万ドルもかかる。一本の映画を作って劇場で公開するためには、合わせて7,603万ドル(約82億円!)かかる計算になる。前回もお話したが、北米の劇場収入だけでこのコストをカバーできるような映画は数えるほどしかない。

 高騰の主な原因は、原作権の取得、脚本代、スターの出演料などの上昇と言われる 。スタジオの幹部たちは、「これだけの制作費をかけて、もしコケたらどうしよう…」ばかりだから、何とかリスクを避けようと、有名な監督やスターのネームバリューに頼るようになった。それがまたギャラの高騰を招いた。無名な新人を使うリスクよりも、名の通ったタレントを使えば、コケても「これだけ有名なタレントを使ったのだから…」と言って、責任回避の理由にもなるというもの。

 結果的に、どこか別の面でコストを減らすしかない。どこでコストを削るかというと、撮影スタッフの人件費だ。そこで人件費の安いロケ地を求めて、スタジオの目は海外に向けられたという訳だ。

 『プライベート・ライアン』('98)『恋に落ちたシェイクスピア』('98)『Xファイル ザ・ムービー』('98)『スターウォーズ・エピソード1 ファントム・メナス』('99)『マトリックス』('99)『M:I-2』(00)などのヒット作群は、カナダ、またはオーストラリアか、イギリスで撮影された。プロデューサー、監督、主演の俳優といったメインのスタッフ以外は現地のスタッフでまかなう。強いドルがあれば、海外ロケの方がロス近郊で撮るより、安くつく。しかも、ハリウッドで撮影する場合は、俳優組合などの厳しいルールに従わなければならないが、海外だと現地のスタッフなので、規制もなく、コスト削減につながる。

 加えて、これら三国は、海外とはいえ、アメリカの都市に比較的近い雰囲気を持っ ているし、現地スタッフは英語を話すので意思疎通は簡単。さらに、CGの発達のおかげで、景色を合成し、臨場感を出せる。さらに現地スタッフのスキルはハリウッドのレベルに追いついてしまったと言われる。実際の場所をロケ現場とする必要性は益々減るばかりだ。

 今や、映画、テレビの撮影隊はどんどんハリウッドを逃げ出し、海外へと向っている。

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