人件費削減を目的に海外に脱出するロケ隊。現在、最大の受け入れ先は、隣国カナダ。「ニューヨークを舞台としたアクション映画をカナダで撮影できます。」なんていうケースが増えている。ジャッキー・チェン主演の『レッド・ブロンクス』('95)やウェズリー・スナイプス主演の『アート・オブ・ウォー』('00)がまさにそれだ。

 カナダでは、98年、海外からのロケが前年比で55%増加した。特に、太平洋側のブリティシュ・コロンビア州バンクーバーと東部のケベック州やトロントなどでロケが盛んだ。ブリティシュ・コロンビア州では一年間に行われたロケの予算総額は7億ドルに達するといわれる。過去10年間に5倍に増えた計算だ。

 映画ロケは、現地クルーという地元の雇用促進だけでなく、飲食、宿泊、小売り、観光地としてのイメージアップなどの副次的な経済効果が大きいとあって、カナダでは官民一体となったロケ誘致が進んでいる。

 一方、制作費の高騰に悩むスタジオにとっても、カナダでロケを行う魅力は大きい。カナダ・ドルが米ドルに比べて弱いこと、人件費がアメリカよりも20%から30%も安いなどのコスト安に加え、撮影に対してカナダ政府からの補助金が出るうえ、税の優遇措置まで受けられるメリットもある。つまり、ビジネスの視点からみれば、カナダにロケ地を動かすのは自然の流れと言える。

 映画撮影の流出によって、アメリカの映画産業は、年間100億ドルを超える収入を失い、2万人以上の人の仕事が奪われたと言われる(米国俳優組合および監督組合調べ)。映画産業が主たる収入源となっているハリウッドを囲むロサンゼルス地区では、映画関係者の失業など深刻な問題に発展している。

 しかし、カナダがハリウッドの空洞化の元凶と非難しているばかりでは何も解決しない。むしろ、カナダのロケ誘致策を見習おうという積極的な動きが見られる。現在、カリフォルニア州議会では、カリフォルニアにも似たような補助金制度を作ろうという法案を検討している。「映画の都、ハリウッド」の空洞化を避けるため、映画関係者は、カリフォルニア州政府に対し、ロビイ活動を展開している。

果たして、ハリウッドは、ロケの海外流出をくい止めることができるであろうか?

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