映画制作会社が金融機関から資金の融資を受ける際、必ずといって良いくらい要求されるのが“完成保証ボンド”だ。金融機関は配給契約を担保に融資する。配給会社は映画が完成しなければ保証金を支払う必要がない。映画は完成しなければ、金融機関は融資を回収できない。よって、金融機関は、映画の完成を保証してくれる完成保証ボンドなしには融資しない。

 1950年からボンドを提供してきた老舗フィルム・ファイナンス・インクのスティーブ・ランソホフ執行権付副社長は、「完成保証ボンドとは、映画に資金を調達した人たちのために、映画が納期までに完成することを保証すること」という。では、どうやって映画の完成を保証するのか。それは以下の2点にある。

(1)映画が予算を超え、資金難に陥った場合、完成するまで不足分を負担してくれる
(2)制作会社から撮影中の映画を引き取り、自ら完成させる。最悪の場合は、金融機関に融資額を返済し、映画制作そのものをボツにする

 同社では、年間220本の映画にボンドを提供しているが、撮影を引き受けたのは2,000本中、8~10本。映画そのものをボツにしたことは全くないという。ボンド提供先の内訳は85%が独立系制作会社、残りの15%はスタジオが制作する映画と、独立系の顧客が多数を占める。

 通常、撮影の始まる3~10週間前からボンド会社が制作に関与する。金融機関同様、脚本、俳優、監督との間の契約書、配給契約、制作予算と撮影スケジュールなどありとあらゆる契約書を吟味した上、プロデューサーと面談を行い、制作側の人材が整備されているかどうかを確認する。そしてボンドを発行するかどうか決定すると、極めて慎重だ。いったん撮影が始まってしまうと、後戻りできないからだ。

 撮影が順調に行なわれ、予算と期限内に映画が完成すれば、ボンド会社の手をわずらわせることはない。しかし、屋外で撮影する場合、雨も降れば、雪も降る。スターが怪我をしたり、病気になったりすると撮影はその分延びる。『グラディエーター』(00)出演の俳優オリバー・リードのように、撮影中に死亡なんてこともありうる。不可抗力の場合はお手上げだ。しかし、機材が故障したり、特殊撮影が必要だったり、解決できるトラブルの場合には、ボンド会社は適切な人材をロケ地に送り込み、制作者側に指示を与えて、問題を解決する。

 実際には、ボンド会社は、制作者に毎日、撮影の進行状況を報告させる。そして、スケジュール通りに撮影が行なわれているかどうかをチェックする。さらに制作者に、会計の週間報告を提出させる。制作費が予算をオーバーしないようチェックするため。ボンド会社は、制作者を管理するという役割を果たす。したがって、ボンド会社の人たちは、制作者以上に制作のノウハウに熟知していなければならない。

 フィルム・ファイナンス・インクのライバルは、シネマ・コンプリッションス・インターナショナルだ。アカデミー賞を受賞した『イングリッシュ・ペイシェント』('96)や『グリーン・デスティニー』『トラフィック』(いずれも00)にボンドを提供した。制作費予算250万ドルから7,500万ドルまでの映画にボンドを提供する。最高執行責任者のドナ・スミス社長は、「制作費の管理と撮影日程を守れる制作者にのみボンドを提供する」と、顧客選択に厳密だ。今まで制作をボツにしたことはないという。

 では、同社からボンドを購入する場合の費用はいくらかかるか? ボンド費用は通常、銀行からの借り入れ額に組み入れられる。たとえば、制作費予算2,600万ドルの映画の場合。

(1) ボンド会社は手数料として予算の2~3%を請求する(52万ドル~78万ドル)。
(2) ボンド会社は、予算がオーバーした時の予備資金として、予算の10%を要求する(260万ドル)。
(3) 銀行は融資手数料と借り入れ利息(約100万ドル)を請求する
(4) 制作に必要な一般的な保険(25万ドル)の他に、天候保険(50万ドル)と死亡保険を購入する。
(5) 弁護士費用。
(6) 撮影中の宣伝広告費(5万ドル)。

 上記のような経費を前払いしなければならないので、銀行から3,000万ドル以上の借り入れが必要となる。したがって、3,000万ドルの融資を受けても、その全額を制作費にまわすことはできない計算だ。

 撮影中、天候や特殊撮影やさまざまの事情で、予算を超えそうな場合、ボンド会社は上記(2)の予備資金をまず使うことになる。その場合、使用金額や目的についてはボンド会社が裁量をもつ。もし、映画が完成するまでに予備資金を使い果たしてしまった場合には、ボンド会社が超過分を負担して映画を完成させることになる。そして、ボンド会社は映画の収益から、金融機関が融資額を回収した後、負担した超過額を回収する。だから予算を超えないようボンド会社は、ロケ現場に出向いて指示を与える必要があるわけだ。



シネマ・コンプリッションス・インターナショナルのスミス社長

 スミス社長は女性で初めての現場担当のスタジオ幹部。その20年にわたる制作現場の経験を買われて、ボンド会社に引き抜かれたスミス社長は、「竜巻映画『ツイスター』('96)が、スタジオがボンドを購入した初めての映画だ」という。「同映画は、ユニバーサルとワーナー・ブラザースがその制作費と配給を折半したので、映画の完成を保証するボンドが必要となった」。スタジオ間の共同制作・共同配給が増える現在、ボンドの需要は更に高まる。


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