ハリウッド組合特集:「脚本家組合」とは

 俳優組合そして監督組合と並び、ハリウッドで影響力をもつ組合が、「脚本家組合(Writers Guild of America)」だ。略して“WGA”と呼ばれる。脚本家組合は、ミシシッピ川を隔てて東部と西部の2つの支部に分かれており、東部には3,000人の脚本家が、西部には8,500人の脚本家が加盟している。どちらの支部に所属しても、組合員として同じ恩恵を受けることができる。西部の事務局は、ロサンゼルスの中心部にあり、俳優組合にも近い。
 組合員の人種構成だが、白人は全体の70%以上。ラテン系は1.35%。アフリカ系は3.51%。アジア系は0.69%。原住民は0.24%。その他、人種を明らかにしたくない人たちが23.52%となっている。性別では、男性が74.69%で、残りが女性の脚本家と、他の組合同様、白人男性が大多数を占めている。
 脚本家組合の役割は、俳優組合や監督組合同様、組合員の最低賃金や労働条件を団体交渉し、二次使用料を徴収してくれるうえ、健康保険や年金の積み立てもしてくれる。組合が脚本家たちの経済的な権利を守ってくれる。今年の5月に契約更新を迎え、ストライキ必至といわれた契約交渉で、脚本家たちのために最低賃金の値上げ、そしてケーブル・テレビや海外での放映で発生する二次使用料の値上げなどの賃上げを勝ち取った。と同時に、脚本家組合は組合員の地位の向上のためにも尽力している。
脚本家組合の事務局、外観
 たとえば、クリエイティブ・コントロール。脚本家の仕事は脚本を仕上げて納品すること。脚本ができ上げれば、脚本家の仕事は終了というものだった。しかし、脚本家にとって自分の書いた脚本は子供のようなもの。どう育っていくのか見守りたい。脚本家組合は、そういった脚本家たちの希望に答えるため、彼らが映画制作の過程やマーケティングに参加できるよう、制作会社に働きかけそして勝ち取った。脚本家たちは、撮影中、ロケ現場に招待してもらい、完成した映画のプレミアやジャンケットにも招待してもらえるようになった。
 一人の脚本家が一つの映画の脚本を完成させるのは理想だが、なかなかそうはいかない。一つの映画に二人や三人以上の脚本家らが書き直しをするのは当たり前だ。映画『フリントストーン モダン石器時代』('94)にいたっては32人の脚本家が雇われていたというから、いかに脚本起こしが複雑な過程となり得るかが分かろう。
 制作者側は予算と時間の範囲で納得いく脚本ができるまで、数人の脚本家を雇っては脚本を書き換える。時には、最初の脚本と完成した脚本が全く別ものなんてこともあり得る。そんな時、どの脚本家が完成した映画の“脚本家”となるのであろうか。脚本起こしに携わった人たちが皆脚本家としてのクレジットをもらうことができるのか。
 脚本家組合の規則によると、組合がクレジットの記載を決める権限をもつことになる。映画の撮影が完了した時点で、制作会社は暫定的な脚本家のクレジット記載を行い、組合に通知する。クレジットから外された脚本家で不服のある者は、組合に仲裁を申し立てることができる。申し立てを受けた組合は、仲裁人を指名してその人の脚本と完成した映画の脚本とを読み比べて、その脚本家にクレジットを与えるべきかどうかを決定する。クレジットは脚本家にとって重要な表記。組合は中立的な立場でどの脚本家にクレジットを与えるか決める。
脚本家組合の事務局、内部(受付)
 映画の基本は脚本。とはいえ、俳優や監督に比べて目立たない存在であり、その地位は決して高いものではない。また、脚本家として働ける寿命も短いといわれる。脚本家組合の使命は多い。
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