TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『Home Improvement』訴訟

 ひとつのメディア企業がコンテンツとそれらを配給する流通経路を傘下に収めると、身内会社間での取引が活発になり、身内でない部外者にとってはなにやら不公正で不透明な取引が行なわれやすくなる。
 身内会社間の不公正な取引を訴えたのは、コメディアン俳優ティム・アレンが主演して大ヒットしたテレビ番組『Home Improvement』を作ったウインド・ダンサー・プロダクション・グループという独立系制作会社であった。この番組は1991年にABCでテレビ放映されて以来、1999年までロングランを続けてきた人気番組であったにもかかわらず、その制作会社は1997年2月24日、ABCの親会社であるディズニーを訴えた。

 その原因は、ディズニーがABCに対し、『Home Improvement』の放映権を不公正に安い値段で売ったからだそうだ。なぜ制作会社が放映権の値段にまで干渉するのかというと、彼らはディズニーとの間で、1990年に『Home Improvement』を制作する独占的な契約を結んだ時、番組の使用料から収益配分を受ける約束をしていた。つまり、番組が高く売れればそれだけ制作者への配分も増えるという仕組みだった。したがって、彼らが番組の放映権をより高値で買ってくれるネットワークに売るべきだと考えるのは当然のことであった。

 1991年にディズニーがABCに最初にこの番組の放映権を許諾した時はまだ、ABCはディズニーの子会社でなかった。ABCで放映された『Home Improvement』は大ヒットし、1995年にディズニーがABCを買収するまですべては順調であった。

 ABCを傘下に収めたディズニーは、『Home Improvement』の放映権の更新契約時期がきた時、ABCに放映を継続させることを決定した。ABCが提示した放映権の値段は一本当たり300万ドルといわれる。

 『Home Improvement』の裏番組である『となりのサインフェルド』の放映権は一本400万ドルといわれる。これと互角の視聴率を稼ぐ『Home Improvement』の値段も、同じくらいであって良いはずだと考えた。制作会社がディズニーの一方的な決定に猛反対した理由として、ディズニーが他の買い手を探さないで、ABCに放映権を売ろうとしていたからだった。制作者らはディズニーに対して、ABCが提示した以上の金額でテレビ放映権を買い取りたいと申し出たが、ディズニーはこの申し出を拒絶した。そして、ディズニーは彼らの反対を押し切ってABCにテレビ放映権を与えてしまった。
 ABCにとっては、親会社ディズニーのおかげで人気番組の放映権を安い値段で確保することができた。ディズニーは子会社に広告収入を確保させることができたわけだ。しかし、ディズニーの身内でない制作者らは納得がいかない。

 ウインド・ダンサーはディズニーを訴えてみたものの、アメリカのテレビ業界は狭い世界だ。訴訟を起こすのは相手を交渉テーブルにつかせるための常套手段で、その後は交渉して仲直りする。ウインド・ダンサーも同様、ディズニーと1999年に和解した。和解内容は公開されていない。しかし、この訴訟で明らかになったのは、身内企業間での使用料の取り決めや許諾条件の交渉がいかに不透明になりやすいかということだ。『Home Improvement』裁判は和解したが、この種の訴訟は今後も増えそうな気配だ。
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