TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 元ディズニー幹部対ディズニーの裁判(1)

 2001年の北米での映画興行収入は83億8,000万ドルを記録し、前年度比9.4%も上回った。観客動員数も約4%増えた。景気後退やテロ事件といった暗い一年ではあったが、ハリウッドはそんな不況をも吹き飛ばす勢いだ。

 ヒット映画の中でも、上位2位と3位にランクされ、それぞれ2億ドル以上の興行収入を稼ぎ出したのは、『シュレック』(01)、『モンスターズ・インク』(01)というCGアニメ映画であった。『シュレック』を配給したのは、新進映画会社のドリームワークス。これに対抗し『モンスターズ・インク』を公開したのはアニメの老舗ディズニーであった。ドリームワークス対ディズニー。ライバル映画会社のアニメ対決の背景には、両社の幹部同士の骨肉の争いがある。
 ドリームワークスを代表するのは、元ディズニーの幹部ジェフリー・カッツェンバーグ。ディズニー帝国の帝王は、マイケル・アイズナーだ。二人は70年代後半、映画会社パラマウントで上司と部下という関係だった。1984年、ディズニーに移籍したアイズナーはすぐに、当時弱冠33才のカッツェンバーグをパラマウントから引き抜き、ディズニーの映画部門の責任者に任命した。

 アイズナーとカッツェンバーグは、社長のフランク・ウェルズと三人で、財政危機に陥っていたディズニーを再建させるために尽力する。その成果はめざましいものだった。映画部門の総収入は1984年、2億4,450万ドルだったのが、10年後にはその20倍近い47億9,330万ドルにまで大躍進した。今をときめくディズニー帝国の基礎は、まさに彼ら三人が築き上げたといっても過言でない。もちろん、ハリウッドのほとんどがこの三人を羨望の眼差しで見詰めていた。

 映画業界はアメリカでも特に競争の激しい世界だ。いつも人より早く出世しようと目をギラギラ輝かせている連中ばかり。互いの足を引っ張り合うなんて当たり前だ。だからこそ、自分を導いてくれるような優れた上司に出会えるなんて幸運以外の何物でもない。パラマウント時代、若きカッツェンバーグにとってアイズナーは、弱肉強食のジャングルをどう生き抜くかを教え導いてくれるまさに師であり、そんな関係に感謝こそすれ、対立するなど考えもしなかった。

 ところが、そんな二人に破局が訪れる。パラマウントを経てディズニーまで寝食を共にし、夫唱婦随のごとくにハリウッドに名声を築いた二人は1994年、フランク・ウェルズの飛行機事故死をきっかけに突如として決裂。ハリウッドを揺るがすような世紀の大訴訟を血みどろで闘い抜く敵同士となってしまう。

 一度仲たがいしてしまうと修復できないのが人間の仲。そういう時にアメリカでいつも登場するのが弁護士だ。ただ、弁護士は壊れた仲をとりもってはくれない。むしろ相手からできるだけ多くの金を毟り取るのが彼らの仕事。だから、いったん弁護士が介入したら人間関係は後戻りのできない憎悪に満ちた最悪のものになることだけは覚悟しなくてはならない。かつては、ハリウッドの羨望を集めた名コンビ、カッツェンバーグとアイズナーも、ついには互いに弁護士を立て、エゴをぶつけ合うことになる。

以下、次号に続く。
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