TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 わがままスターは頭痛のタネ(1)

 スターは有名になるとわがままになる。周りの連中が何でも言うことを聞いてくれるうち、世の中が自分を中心に回ってくれると感違いするようになる。コメディアン俳優のマイク・マイヤーズも例外ではなかったようだ。ただ、彼の場合は、そのわがままがエスカレートし、裁判所に行き着いてしまった。映画スタジオとの間の約束を破ったとして、訴えられるはめになったのだ。ところが、絶頂期にあるスターのわがままとはすごいもので、マイヤーズは、訴えたスタジオを逆に訴え返してしまった。

 アメリカの人気TVコメディ「サタデー・ナイト・ライブ」で頭角を現したマイヤーズは、同番組に登場するキャラクターを使ったコメディ映画『ウエインズ・ワールド』('92)で映画デビューを果たす。脚本も担当していたマイヤーズの出演料は100万ドル。その後、とんとん拍子にヒット作が続き、5作目の『オースティン・パワーズ:デラックス』('99)では出演料はなんと700万ドルにもはね上がっていた。この映画でも、もちろん彼は脚本まで担当。彼の演技以上に、彼の考え出した、イギリスの諜報部員をパロった主人公オースティン・パワーズは、世界中の人々を魅了した。コメディはアメリカ国外で当てにくいというジンクスを破って、この映画は世界中で3億ドル以上の興行収入を稼ぎ出した。
 『オースティン・パワーズ:デラックス』を生み出す直前、上り坂にある彼の人気に目をつけたユニバーサルは、映画主演の話を持ちかけた。もちろん、主演だけでなく、脚本と製作も兼ねてという条件で。当時、ユニバーサルの興行成績はメジャーの中では最下位に近い状態で、同社幹部はヒット作を生み出さねば、と焦りまくっていた。マイヤーズのような売れっ子が脚本、製作、主演までこなす映画となると確実に当ることが期待できる。ユニバーサルが飛びついたのも無理はなかった。ユニバーサルとマイヤーズ側は、彼が「サタデー・ナイト・ライブ」で作り出した“ディーター”というテクノポップのドイツ人キャラクターを主人公にして映画を作ることで合意。同スタジオは、2001年夏の目玉作品として大ヒットをもくろんでいた。

 マイヤーズはさっそく脚本執筆にとりかかるが、満足したものができあがらず、実に14回も書き直すことになる。その間に『オースティン・パワーズ:デラックス』が公開され、世界中で大ヒット。これで押しも押されぬスーパースターとなったマイヤーズは、出演料の値上げをユニバーサルに要求した。それが受け入れられると、今度はもう一つ重要な要求をユニバーサル側に呑ませた。それは、脚本にゴーサインをだす最終権限をマイヤーズに与えるというものだった。

 大スターになると、脚本の内容に口を挟むことがよくある。スターの要望に合わせて脚本を最初から書き直しなんてこともしばしば。ただ、この作品の場合、脚本はもともとマイヤーズ本人が手がけることになっている。その彼が最終権限を持ったとしても特に問題は起こらないだろう。ユニバーサルはそう考え、この条件までも受け入れたのだった。ところが、思いもよらないことが起こるのであった。

<次号に続く>
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