TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 わがままスターは頭痛のタネ(2)

 クランクイン直前、マイヤーズは自分で書いた脚本を、「この脚本では映画は作れない」と映画出演の拒否を宣言したのだった。脚本の最終決定権を盾に彼はこう主張した。自分は2年間にわたり、共同脚本家と一緒に何回も脚本を書き直したが、結局満足のいく脚本が完成しなかった。だからこの映画には出演できない、自分の脚本が“気に入らない”などという、常識では考えられない主張をしてきたのであった。

 困ったことに、ユニバーサル側は製作準備をとっくに始めており、監督、撮影監督、俳優、デザイナーその他撮影に必要な人材と契約を結んで、もうクランクインの準備万端という状態にまで漕ぎつけていたのだ。ユニバーサルはすでに準備費用として380万ドルを費やしていた。
 「脚本は十分良いものだし、マイヤーズの名前がつけば売れる映画ができるのだから」とユニバーサルは、マイヤーズを何とか説得しようとする。しかし、マイヤーズは頑強に「満足いく脚本ができあがるまで、映画をつくるつもりはない」とダダをこねる。このままでは、撮影が遅れ、それ以降のすべての予定が狂ってしまう。もう、行き着くところは裁判所しかなかった。

 ユニバーサルは2000年6月5日、マイヤーズを被告として、ロサンゼルス上級裁判所に、今までの製作準備に費やした費用約500万ドルの返済と、マイヤーズが他の映画に出演できないよう差し止めを求める訴訟を起こした。驚いたことにマイヤーズはこれに負けじと、逆にユニバーサルを訴えた。

 彼の言い分はこうだ。「脚本の最終決定権を持つ自分は、脚本にゴーサインを出してはいない。満足できない脚本を映画化するつもりはない」と映画の“質”の問題であると強調。「脚本をボツにしたにもかからず、ユニバーサルは勝手に一人で突っ走っただけ。自分は脚本の準備に1セントも受け取っていないし、それどころか、脚本準備中に他の映画会社からもっと出演料の高い仕事の申し出があったのに、全部断って2年近くもこの作品のために費やしてきたのだ」と反論。ユニバーサルに対して2,000万ドルの損害賠償を請求した。

 マイヤーズが主張するように俳優としてのクリエイティブ・コントロールの問題なのか、ただのわがままなのか。その辺の判断は皆さんにお任せするとして、最終的にはこの裁判は、ユニバーサルと提携関係にあるドリームワークスの経営者ジェフリー・カッツェンバーグの仲介で、両者は和解に漕ぎつけた。

 マイヤーズは、ユニバーサルとドリームワークスが共同製作する映画のために脚本を書き下ろし、主演することで合意した。ユニバーサルは別の形でマイヤーズ作品を得ることにはなったわけだが、当初合意していた作品はおしゃかとなってしまった。結局、大スターであるマイヤーズは言い分をほぼ通したわけである。
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