TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『スター・ウォーズ』とキャラクター・ビジネス(2)

 20世紀フォックスは、1,000万ドルの製作費を調達するかわりに、全世界での映画の配給権(テレビ放映、ビデオ化権含む)を取得した。これに対し、ルーカスは監督費として10万ドルを、脚本料として5万ドルを、さらに映画から収益の40%、続編を作る権利、出版権、サウンド・トラックの権利、そしてマーチャンダイジングに関する全権利を確保した。
 ルーカスのような一流監督を安い値段で買った、と喜んだフォックス側弁護士たちが、『スター・ウォーズ』のマーチャンダイジングの権利を放棄したことが、どういう意味を持つのか、気づくのに時間はかからなかった。

「映画スタジオとしては、最も大きなミスをおかした」と言うのは、当時交渉にあたったルーカス側の弁護士だった。20年以上も前のハリウッドでは、「マーチャンダイジングやサウンドトラックは収益に結びつかない」と言われていた。スタジオでは、興行収入の数字にばかり頼っていたので、マーチャンダイジングを扱う担当者などいないのが現状だった。
 その上、20世紀フォックスは1967年に『ドクター・ドリトル』を劇場公開した際、アメリカ最大のおもちゃ会社であるマテルと共同で、時計、帽子、薬箱キットといったドリトル・グッズを展開したことがあった。ところが映画がコケると、おもちゃもコケた。大量生産していたドリトル・グッズは在庫と返品の山となってしまった。20世紀フォックスは過去の失敗にこりたため、『スター・ウォーズ』のマーチャンダイジングのチャンスを見送ったようだ。

 『スター・ウォーズ』には、ルーク・スカイウォーカー、ハン・ソロ、レイア姫、ダース・ベイダー、ヨーダ、オビ=ワン・ケノビ、R2-D2、C-3PO、チューバッカ、ストームトルパー、デス・スター、数え切れないキャラクターたちが登場する。『スター・ウォーズ』は、最初からキャラクター・グッズを想定して作られた、ハリウッドで最もサクセスしたフランチャイズ映画と言えよう。
 『スター・ウォーズ』のおもちゃを作ったのは、シンシナチにあるケナーというおもちゃ会社だった。権利元であるルーカス・フィルムは、ケナーに対してスター・ウォーズ・グッズの独占販売権を年間10万ドルでライセンスした。『スター・ウォーズ』の大ヒットで、ケナーの売り上げは大きく伸びた。そのおかげか、ケナーは1991年、おもちゃ会社の第二の大手ハスブロに買収された。ルーカスはキャラクターのライセンスで、前払い、ギャランティの他に、ロイヤルティとして売り上げの15%を受け取ったと言われる。おもちゃ業界では、マーチャンダイジング・ロイヤルティはグロス収益の5~10%が標準といわれるので、ルーカスのロイヤルティ15%は高めの部類だ。

 ルーカスは、『スター・ウォ-ズ』の前世代編第一部である『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を制作し、この作品は1999年に劇場公開された。5月16日に公開された『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』は、第二部にあたる。第三部は2005年を公開予定としている。この新しい三部作で、ルーカスは、500以上の新しいキャラクターと、75以上の乗り物を発表する予定だという。
 ルーカス・フィルムは、古巣のハスブロにマーチャンダイジングのライセンスを与えた。このライセンス契約で、ハスブロはルーカスに5億ドルの前払いと20%のロイヤルティと、更に会社の株式の5%を優先的に与える約束をしたという。許諾を受けたハスブロは1999年のスター・ウォーズ・グッズの販売予測を8億ドルとたてた。

 ウォール街の株価専門家らは、スター・ウォーズ・グッズの販売権を握ったハスブロの、1999年度の売り上げは、8億ドルから10億ドルになるであろうと予測していた。映画『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』は予想通り、大ヒットした。しかし、スター・ウォーズ・グッズの売り上げは、期待はずれの4億5,000万ドルに終わった。『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』のヒットで、スター・ウォーズ・グッズのブームを再燃させることができるかどうか、ハスブロの社運にかかっているといえそうだ。
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