TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 リーボック対トライスター

 映画の中で、ある商品をアップで見せたり、出演タレントにその商品を使ってもらったりするのも宣伝効果がある。プロダクト・プレイスメントとよばれる手法で、ハリウッドの映画ではすでにおなじみだ。
 ハリウッド映画は、北米のみならず、全世界中で劇場公開され、DVDやホームビデオでも配給され、テレビやネット上でも上映され、かなり長い期間人々の目にふれるので、宣伝効果は高い。全世界で商品を売りたいスポンサー会社にとっては、賞味期間の長い宣伝となる。一方、製作費が高騰するハリウッドでは、映画製作会社が映画の中で商品を紹介する見返りとして、スポンサーから現金や商品などの提供を受けることができ、製作資金の一部にあてることができる。スポンサーが映画のマーケティングをサポートしてくれる場合もあるので、大切なお客様だ。

 たとえば、アメリカではすでに公開されている(日本では秋の予定)『マイノリティ・レポート』。スピルバーグ監督とトム・クルーズ主演という豪華な組み合わせで注目されている。この映画の中では、15品目にもおよぶ商品もしくはサービスがプロダクト・プレイスメントされている。American Express、Aquafina、Ben & Jerry's、Bulgari、Burger King、Century 21、Fox、The Gap、Guinness、Lexus、Nokia、Pepsi、Reebok、Revo、USA Todayなどのおなじみさんがスポンサーとなっている。
 これらのスポンサーから、1億ドルを超える製作費のうち、2,500万ドルに相当する対価を受けているといわれる。現金を提供していれるスポンサーもいれば、車や飲料水、ハンバーガー、衣装などを現物で支給するのもありだ。どちらにしても、スポンサーは、ハリウッド映画になくてはならない存在となっている。

 しかし、映画の中での商品の露出が、ほんの一瞬でほとんど観客の目にとまらないような場合とか、スポンサーの意図に反するような使われ方をした場合、どうなるであろうか。

 映画は脚本の段階で、プロダクト・プレイスメントのエージェントの仲介もしくはスポンサーとの間で話しが決まる。スポンサーが提供する商品やサービスが、映画の中でどういう風に使われ、どのくらいの露出があるのかなど条件が決まると、お値段も決まる。しかし、実際の撮影が始まると、監督が主導権を握るし、最後の編集段階で手が加えられることも多い。映画ができあがってみると、こんなはずじゃなかったなんてこともあり得る。
 トム・クルーズが主演し、アカデミー賞にノミネイトされたヒット映画『ザ・エージェント』('96)がそれだ。この映画にはCoke、 Gatorade、Budweiser、Toshibaなど25を超える品目がプロダクト・プレイスメントされた。その中の一社である、アメリカの大手スポーツ会社Reebokは、映画を製作したトライスターを契約違反で提訴した。

 その理由は、映画のエンディングでReebokのコマーシャルを流すことを条件として、Reebokはトライスターに対して自社ブランドのジャケット、シューズ、本物のスポーツ選手、それに出演俳優をトレーニングするコーチなどを無料で提供した。さらに約束のコマーシャルを作るために20万ドル使い、映画の公開に先立ちクロス・プロモーションとして1,500万ドルを使った。
 にもかかわらず、完成してきた映画からはReebokのコマーシャル・シーンはカットされ、そのうえReebokについてのネガティブなコメントだけが残された、というものだった。キューバ・グッディング・Jr.演じるフットボール選手が「F--- Reebok」というシーンのことだ。これでは話が違う。憤慨したReebokが製作・配給を担当したトライスターを訴えたというわけだ。

 訴訟中、肝心のコマーシャル・シーンがカットされ、ネガティブなコメントが使われたのは、キャメロン・クロウ監督の指示だったのかどうかは明らかにされていないが、この裁判は事実審理前に和解され、一件落着した。和解の内容は公開されていないが、Reebokが受け取った和解金は100万ドル未満ではないかといわれる。Reebokのような映画に現金と現物でプロダクト・プレイスメントしてくれるお客様をないがしろにしてはいけないと認識したのか、トライスターはカットしたReebokのコマーシャルを復元して、『ザ・エージェント』をテレビ放映した。めでたし、めでたしの結末でした。
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