TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 パブリックドメインとは その2

 パブリックドメインとは、著作権が消滅してしまい、独占的な権利ではなくなること。今回も引き続きこのパブリックドメインについてです。
 1998年に著作権保護期間を20年間延長した法律は、the Sonny Bono Copyright Entension Actと呼ばれる。この法律のおかげで、本来であれば権利が切れる予定であった著作物が更に20年間長生きをすることになった。たとえば、1923年に創作された書物は、保護期間としてマックス75年与えられるので、1998年末には権利切れとなる予定であった。権利が切れればパブリックドメイン。出版社やネット関連の人々は、使用料を払うことなく、自由にネット上で掲載したり、出版したり、リメイクをつくったり、映像化したり、といろいろなことができると期待していた・・・。

 ちなみに、議会が発行するレポートによると、1923年から1942年の間に創作された著作物の数は、3、500万にのぼるそうだ。その中には、あの名作「華麗なるギャッツビー」や「日はまた昇る」の書籍などが含まれているそう。著作権の延長がないと、これらの著作権はつぎつぎと期限切れになり、パブリックドメインになるはず・・・。
 アメリカの議会が、一方的に法律を改正して、著作権という大切な独占的な権利を20年も延長してしまうことって許されるの?アメリカ憲法は、科学と有益な芸術の進展を促進するために、創作者や発明者に限定された期間独占的な権利を与えようとして保護している。その目的を達成するために、議会に立法する権限を与えたわけだ。議会が、著作権の保護期間を20年延長してしまう立法は、与えられた権限を越えたものではないのであろうか?という疑問を提起したのは、エリック・エルドレッドさん。

 1999年1月11日、司法長官を相手として、違憲判断を求めて、訴訟を提起した。原告のエルドレッドさん側には、同じように出版業をビジネスとしている人々が参加している。更に、スタンフォード・ロースクールの教授で、インターネットと著作権を専門とするローレンス・レシッグ氏をはじめとして、著名なロースクールの教授ら10名以上の専門家が原告の代理人として、プロボノ(ボランティアのこと)でこの訴訟に参加している。
 他に憲法教授、知的財産専門の教授、図書館関係者、インターネット会社らが、原告の主張を支持して、意見書や声援を送っている。多くの専門家たちが関心を示しており、この訴訟の行方を見守っている。もし、1998年法が違憲と判断されると、映画ライブラリーをかかえるハリウッド・スタジオや権利ビジネスをしている企業にとっては一大事だ。

 エルドレッドさんによると、一番最初のアメリカの著作権法(1790年)では、保護期間として著作権者に14年間、さらに更新することにより14年を追加していた。当時は28年がマックスの保護期間であった。その後11回にわたって著作権法が改正され、なんと95年にまで延長されたというわけだ。
 権利が切れそうになるたびに、期間を延長してしまうなんて、あり?95年という保護期間。アメリカ憲法が謳っている「科学と有益な芸術」を振興するために与える「制限的」な期間としては、長すぎるのではないかしら?人間の一生よりも長い期間与えられる独占的な権利。本当にクリエーターたちを守るための法律なのであろうか?著作権が延長され、権利が生きている書籍のなかには、絶版になっているものも多い。エルドレッドさんやその仲間は、こういったほとんど流通していない書籍をネット上で無料で出版する予定であった。

 第一審である地方裁判所は、エルドレッドさんの主張を退ける判決を下した。それは、著作権の保護期間を議会が延長し、現存する著作権にもこの延長を適用するのは、議会の権限を逸脱したものではないし、延長された期間は「永遠」ではないので、「制限」された期間だ、ということであった。著作権保護期間延長は憲法違反ではない。上訴審であるDC控訴裁判所もこの判決を2対1で支持した。
 反対意見を出したセンテレ判事は、保護期間を延長することは、新たなクリエイティブな創作物を生みだすインセンティブを奪うものであり、文化や芸術の振興に貢献しない、と。控訴が棄却されたエルドレッドさんは大ピンチ。最後の砦であるアメリカ連邦最高裁判所に上告。はたして、最高裁判所はどういった判断を下すのであろうか?

 2002年2月19日、連邦最高裁判所は、エルドレッドさんの上告申し立てに対して、1998年法はアメリカ憲法に違反しているかどうか審理する必要がある、と審理を再開した。エルドレッド対アシュクロフトの訴訟。双方がその主張を譲らず、白熱した憲法議論を展開している。
■詳細及び最新情報はこちらから> http://eldred.cc/
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