TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 ピーターパンは誰のもの?(2)

 前回に引き続き、おとぎの国ネバーランドに住むピーターパンが巻き込まれている裁判について。ピーターパンの著作権を巡る訴訟とは?
 著作権は国によって異なっている。その国で保護してもらうためには、その国の法律にしたがうことになる。したがって、イギリスでピーターパンの使用権が永遠であっても、他の国で同じとは限らない。アメリカではどうであろうか?ソマさんは、アメリカで本を出版するためには病院の許諾が必要か?

 ソマさんと弁護士団はノーと判断した。病院側の主張は「原作者が創作したピーターパンの劇に関する著作権は、アメリカで2023年まで保護されている」と真っ向から対立。ここでピーターパンに登場してもらおう。
 ピーターパンが生まれたのは、1902年にまでさかのぼる。始めて登場したのは、バリーさんが書いた「The Little White Bird」という本だ。1904年にはピーターパンが主人公の劇「Peter Pan or the Boy Who Would Not Grow Up」を書いた。そして、1906年には、「Peter Pan in Kensington Gardens」を、1908年には「When Wendy Grew Up: an Afterthought」を、1911年には「Peter Pan and Wendy」をたてつづけに出版した。

 出版された年から計算すると、アメリカでは1909年旧法が適用されるから、1902年の作品には、最長75年の保護期間が与えられる。したがって1977年に著作権が消滅すると考えられる。ただし、権利者が著作権をアメリカで登録して、更新していることが前提だ。ソマさんの代理人であるエリザベス・レーダー弁護士によると、「どんなに長く見積もっても、ピーターパンに関するアメリカでの著作権は1987年には消滅している」という。
 病院側は、1928年にアメリカでピーターパンを著作権登録している。その著作権には、75年プラス20年で、トータルして95年与えられていること、したがって、1928年のピーターパン作品の権利が2023年まで続くと主張している。1987年に消滅しているというソマさんの主張とは真っ向から対立している。

 病院がピーターパンを死守しなければならない理由は、そのロイヤルティ収入にある。たとえば、ピーターパンを超有名人にしたディズニー・アニメ。ディズニーに対してピーターパンの劇と本の権利を1939年ごろにライセンスした。ディズニーは、アニメ映画を製作して配給する権利を得て、1953年に劇場公開した。その後1958年、1969年、1976年、1982年、1989年に再公開して、稼ぎ続ける。ピーターパンはビデオやDVDでも売れっ子で、ディズニーから支払われるロイヤルティは病院を潤した。

 1990年にスピルバーグが監督した実写映画『フック』からもロイヤルティを得ている。その金額は、1億ポンドを超えるといわれビデオ、DVDの二次使用からの収益もかなりの金額になる。権利ビジネスは当たると大きい。ピーターパンの権利を巡る訴訟のゆくえが、病院自体の経営に影響することは明らかだ。
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