TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 デジタル出版を巡る著作権問題(1)

 紙媒体が主流であった時代からデジタル・メディアに移行するとき、常に問題となるのが著作権。紙媒体で出版されていたコンテンツを、CD-ROMとかインターネット上のデータベースに収録して、出版する場合、コンテンツを創作した著作権者から再許諾を受ける必要があるか? もし、著作権者からの許諾なしに、出版社がコンテンツを出版したら、著作権侵害となるか?
 出版社の社員が、会社のために取材をして記事を書き、写真を提供する場合は、雇用主である出版社にその著作権は帰属する。したがって、出版社が、その著作物をどう二次利用しようと自由。創作者に二次使用料を払う義務はない。もし、社員ではなくて、フリーランスのジャーナリストや写真家だったらどうであろうか。雇用関係はない。出版社とフリーランスとの間の契約で決まる。アメリカでは、フリーランスのジャーナリストらが出版社を相手に、ディジタルで出版する権利を巡って争っている。

 原告となったのはジョナサン・タッシーニさんと5名のフリーのジャーナリスト、写真家ら。ニューヨーク・タイムズ誌、ニュースディ、スポーツ・イラストレイテッドといった雑誌に記事や写真を提供していた。ところが、出版社がタッシーニさんらのコンテンツをネット上で検索データベースを提供するNEXIS、NYTO、GPOに無断で記事を売った。1993年12月16日、原告らは、出版社とデータベース会社らを被告としてニューヨーク州の連邦地方裁判所に提訴したのが始まりだ。Tasini et al. v. New York Times Co., Inc. et al.
 記事や写真といったコンテンツの著作権は原告らに帰属する。雑誌という編集著作物は出版社に帰属する。この点は双方とも争っていない。どこが問題かというと、出版社側に、個々のコンテンツをデータベースに収録し、デジタル出版する権利があるかどうかだ。
 第一審である連邦地方裁判所は、あると判断した。出版社には、編集著作物を「改訂」する権利がある。そして、デジタルのデータベースに収録して、出版することは、この「改訂」に当たるので、個々の著作権者から再許諾を受ける必要ない。再許諾料を支払う必要もない、と判断した。そして原告らは控訴した。1999年のこと。
 控訴審では、連邦地方裁判所とは逆の判断を下した。著作権法で認められている「改訂」とは、オリジナルで出版されたコンテンツをそのままの形で出版することを意味する。原告らは出版社に紙媒体で発行することを許諾した。原告らのコンテンツは、最初に発行されたそのままの形で「改訂」する場合、たとえば、再版とかマイクロフィルムでの収録なら、著作権者が出版社に許諾した範囲に入るであろう。しかし、データベースに収録する場合は、出版されたオリジナルのままでは掲載されない。

 検索から表示される記事は、テキストだけが掲載され、構成もヘッドラインも異なる。関連記事とのつながりもなければ、関連写真もいっしょに掲載されない。もはや原告らが許諾した範囲とはいえない。したがって、出版社はコンテンツを検索用データベースに収録したり、それをCD-ROMで発売する場合、著作権者から再許諾をとらなければならない。そうなると著作権者は、出版社に拘束されることなく、ディジタルで出版する権利を別の会社にライセンスすることも可能だ。
 最高裁判所も控訴審と同じ判断を行い、2001年6月25日に確定した。約8年にわたるこの訴訟の影響は大きいようだ。アメリカでは、フリーのジャーナリスト、作家組合などが出版社を相手に同様の訴訟を起こしている。ちなみに、この訴訟で負けたニューヨーク・タイムズ誌は、そのサイト上で、フリーのジャーナリストたちに許諾を呼びかけている。もし、あなたが1980年から1995年の間にニューヨーク・タイムズ誌に記事を寄稿していたら、ご注意。
■詳細はこちら> http://survey.nytimes.com/survey/restore/
■訴訟の判決はこちら> http://caselaw.lp.findlaw.com/scripts/getcase.pl?court=US&vol=000&invol=00-201
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