TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 ハリウッド映画のビデオ市場(2)

 メジャー・スタジオが配給するハリウッド映画はキラーコンテンツだ。映画のビデオは、劇場公開後約6ヶ月でレンタル・ショップに並び、ペイ・パー・ビューが始まるまでの数ヶ月間が商戦となる。したがって、商戦を勝ち抜くためには、ビデオのレンタル・ショップは、なるべく多くのコピーを店内に置きたいものだ。
 レンタルの主流であるVHSテープのレンタル・ショップへの卸値段は、新作映画だと、一本60ドルくらいから、100ドル近くする。10本仕入れると1,000ドルかかってしまう。新作をたくさん置きたいけど、予算のやりくりがつかない…といっていると、お客さんは品数と品揃えの豊富なレンタル・ショップに流れてしまう。

 アメリカには圧倒的なマーケットシェアを誇るレンタル・ショップがある。それは、“ブロックバスター”と呼ばれるチェーン店で、バイアコムというメディア企業が親会社だ。バイアコムは、ブロックバスターの他に映画会社パラマウント、ネットワークCBS、ケーブル会社であるMTV、出版社などを傘下に置くコングロマリットだ。ブロックバスターはアメリカ中に8,500店舗のレンタル・ショップを経営していて、約40%のビデオ市場のシェアを誇っている。レンタル・ビデオ市場の多くを占拠している企業は、当然のことながらライバルに対して優位にあるといえよう。

 ブロックバスターは、1997年から98年までに、ビデオを配給するメジャー・スタジオとの間で「レベニュー・シェアリング」という独創的な提携を結んだ。ブロックバスターは、レベニュー・シェアリングの契約を、パラマウント、ブエナビスタ、コロンビア、ワーナー、二〇世紀フォックス、ユニバーサル、MGMとの間で結んだ。契約条件はスタジオごとに異なっていたが、基本的なアイデアは同じだった。すなわち、ブロックバスターは、メジャー・スタジオから提供されるレンタル用ビデオの値段を15ドルくらいの廉価で仕入れる。その代わりに、ビデオがレンタルされるたびにレンタル料金から、合意した割合をスタジオに対して支払うというやり方だ。
 レンタル・ショップとしては安い値段で多くのビデオを仕入れることができる。顧客もレンタル・ショップに行けば、見たい新作映画のビデオをゲットできるというもの。回転率が高ければ、ショップもスタジオも潤うわけだ。こうして、ブロックバスターの各店舗には、新作映画ビデオが100本近く並ぶようになった。顧客はブロックバスターに行けば、見たい新作がレンタルできる。したがって、レベニュー・シェアリングをしてもらえない小規模経営のレンタル・ショップはブロックバスターとの競争に負けていった。アメリカの業界誌によると、1998年には全体の10%にあたる約2,500店舗が閉鎖を余儀なくされ、熾烈な生存競争となっていった。

 最大手のブロックバスターにはレベニュー・シェアリングがあるおかげで、多くの新作ビデオを廉価でゲットできる。しかし、小規模なレンタル・ショップにはレベニュー・シェアリングがもらえない。ただでさえ生存競争の厳しいレンタル・ビジネス。中小のレンタル・ショップが生き残ることは難しい。そして、彼らが考えたことは、ブロックバスターとレベニュー・シェアリングの契約を結んでいるメジャー・スタジオであるパラマウント、ブエナビスタ、コロンビア、ワーナー、二〇世紀フォックス、ユニバーサル、MGMを相手取って、独占禁止法違反で提訴することであった。
 200社に及ぶアメリカ各州のレンタル・ショップは、原告となってカリフォルニア州のロサンゼルス上級裁判所に提訴した。2001年1月のことであった。原告側の主張は、いたってシンプル。ブロックバスターはバイアコムの子会社であり、ハリウッドでは絶大な影響力をもっている。その影響力を使って、スタジオと共謀し、ビデオ市場を独占するために、他のレンタル・ショップを廃業に追い込んだというもの。

 訴訟の途中、ワーナーとMGMは原告らとの間で1,500万ドルで和解した。和解しなかった被告側は、互いの間に共謀はなかったこと、レベニュー・シェアリングは自由競争であることを主張し、その主張は認められた。そして被告の敗訴となった。判決は2003年2月に下された。メジャー・スタジオが特定のレンタル・ショップとどういった契約を結ぶのかは自由競争ということのようだ。

 競争はこれだけでない。DVDセルが活況し、レンタル市場そのものが頭打ちの感が強い。その上、レンタル・ショップに行かなくてもビデオをレンタルできるオン・デマンドやネット上で注文できるシステムも進行中だ。アメリカの中小レンタル・ショップの将来は決して明るいものではなさそうだ。
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