TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 主演俳優の賃金闘争1 アメリカの人気テレビ番組 『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』の場合

 『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』と言えば、アメリカのケーブル局大手であるHBO(ホーム・ボックス・オフィス)が放映して大ヒットしたテレビ・シリーズである。HBOとは、タイム・ワーナーの傘下にある有料ケーブル局であり、『セックス・アンド・ザ・シティ』や『バンド・オブ・ブラザース』といったヒット作品を提供しているので有名だ。1999年から始まった『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』は、HBOの看板番組のひとつであり、昨年13,400万世帯が見ていたそうだ。海外にも輸出され、日本でもテレビ放映されている。

 ニューヨークを舞台に、イタリア系のマフィア・ファミリー、ソプラノ家を中心にしたドラマで、現代版『ゴッドファーザー』とでも言うべきか。主人公トニー・ソプラノを演じるのはジェームス・ガンドルフィーニ/James Gandolfini(41才)。ガンドルフィーニは『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』で一躍トップスターに躍り出た。はまり役マフィアのボスを演じて、テレビ界のアカデミー賞であるエミー賞を2回受賞している。賞をとり、有名になり、ヒット番組に欠かせない存在となっていくと、当然のことながら賃金闘争となっていくようだ。ガンドルフィーニも例外でなかった。
 ガンドルフィーニはHBOの子会社であるソプラノズ・プロダクションとの間で雇用契約を結んでいた。テレビ番組に出演する条件が決められている。契約によると、ガンドルフィーニが番組に出演するギャラの料金は、一回分40万ドルであった。一年間に13回分を製作するので、ガンドルフィーニは5億2,000万ドルをもらっている計算になる。

 しかし、ガンドルフィーニはこの金額に満足しなかったようだ。どんなに番組がヒットしようと、ビデオやDVDが売れようと、二次使用からの利益がポケットに入る訳ではない。『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』と並ぶヒット番組である『ザ・ホワイトハウス』に主演しているマーティン・シーンは42万5,000ドル稼ぐ。ガンドルフィーニはベテラン俳優シーンと同レベルで稼いでいる。

 しかし、『そりゃないぜ!?フレイジャー』のケルシー・グラマーの一回分のギャラは160万ドル。ガンドルフィーニのギャラの4倍だ。『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』は、有料ケーブル局の番組であり視聴者からの料金でなりたっている。スポンサーからの収入は入らない。スポンサーつきのネットワーク局NBCの人気番組のギャラと比べるのはちょっと無理では? しかし、ガンドルフィーニはそう考えなかった。
 『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』のシーズン5の製作が発表されたのは今年の3月。そしてガンドルフィーニは3月6日、ソプラノズ・プロダクションとHBOを相手にカリフォルニア州ロサンゼルス上級裁判所に、契約違反を理由に雇用契約の解除を求めて提訴した。

 訴状によると、『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』のシーズン5の製作が決まったら、10日以内にガンドルフィーニに通知しなければならないのにもかかわらず、必要な通知がなされなかった。そしてガンドルフィーニの雇用契約は、7年を超える雇用を求める内容が盛り込まれているから、7年を超える部分は強制できない、と主張していた。

 “7年ルール”というのは、俳優やタレントが多く居住するカリフォルニア州にあるユニークな労働法規定である。カリフォルニア州労働法第2855条では、俳優たちをスタジオ雇用者からの一方的な契約から保護するため、どんな雇用契約も7年を超えてはならないと規定している。雇用契約が切れたら、雇用者に縛られることなく、ギャラ再交渉や雇用者を変えることができる。(次号に続く)
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