TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 主演俳優の賃金闘争2 アメリカの人気テレビ番組 『ザ・ソプラノズ:哀愁のマフィア』の場合

 カリフォルニア州労働法第2855条では、俳優やタレントといった特殊な技能をもち、ユニークなサービスを提供する労働者を7年間を越えて拘束することはできない。古くは、1940年代の訴訟から立法化された規定である。

 どういった訴訟かというと、ハリウッド女優オリヴィア・デ・ハヴィランドが雇用者であるワーナー・ブラザースを相手どって、映画出演雇用契約の解除を求めたのであった。ハヴィランドとワーナー・ブラザース間の契約では、7年間ハヴィランドがワーナー・ブラザースの映画に出演することが義務付けられていた。ハヴィランドはこの7年間に25週間のオフをとっていた。ワーナー・ブラザースは、25週間分の労働を求めた。争点となったのは、この7年間というのは、契約開始から7年間を意味するのか、それとも、7年間女優を拘束することができるのかが裁判所で争われた。
 女優は契約開始から7年間を主張し、スタジオ側は7年間の実質拘束を主張した。裁判所は女優の主張を認めた。当時のスタジオ・システムでは、俳優や監督といったタレントたちは、スタジオ側に有利な契約をのまざるを得ない現状であり、どうしても交渉力の弱いタレントが不利であった。契約期間を7年をマックスにして、それを超える部分は強制できないことを法律で明文化したのがカリフォルニア州労働法第2855条であった。

 しかし、この“7年ルール”はミュージシャンには適用されない。1987年に法律改正があったとき、音楽レーベルやレコード会社たちの要請で、ミュージシャンは7年間を超えても契約から開放されないことが規定されてしまった。俳優は“7年ルール”で守られるが、ミュージシャンは守られない。音楽業界の特殊性とレコード会社の交渉力の勝利となってしまったようだ。

 アメリカの音楽業界では、ミュージシャンがレコード会社との間で結んでいる定型的な契約では、7年間に7枚のアルバムを作成して、マスターを納品しなければならない。一枚のアルバムを1年で作成、納品し、そのアルバムを売るためにツアーやコンサートに出る。ツアーの最中に次のアルバムのために作詞、作曲をし、レコーディングをするなんてことは現実的には不可能だといわれている。7年間7枚アルバム契約を結んでいたコートニー・ラブは、レコード会社を相手取って契約解除を求める訴訟を起こしている。音楽業界は映画業界と異なった扱いを受けているようだ。
 ガンドルフィーニの話にもどろう。“7年ルール”で保護されている俳優は、この規定を盾に契約からの解放を求めることができるわけだ。ガンドルフィーニもこの規定を理由に、ヒット番組主演ギャラの再交渉を求めた。ガンドルフィーニの提示したギャラは、『そりゃないぜ!?フレイジャー』のケルシー・グラマー並みの金額であった。

 交渉の途中、年間1,600万ドルにまで提示額を下げたが、ケーブル局としては、主演俳優なしに番組を製作することは不可能だが、といっても受け入れられない金額であったようだ。HBOは3月24日には番組の撮影を開始しなければならない。主人公がいないと始まらない。穴をあけては大変だ。HBOはガンドルフィーニを相手に1億ドルの損害賠償を求めて反訴を提起した。

 ギャラの値上げを求める俳優とこれに抵抗するケーブル・テレビ会社。最終的にはガンドルフィーニの全面主張は認められなかったが、一回あたり70万ドルくらいのギャラで和解したそうだ。両者は訴訟を取り下げ、ガンドルフィーニは撮影にもどることになった。これが3月末のこと。HBOはとりあえず一安心というべきか。今回はゴネタ俳優の勝利のようだが、番組のなかで消されてしまわないことを祈るばかりだ。(そういえば、人気がでてワガママになってしまった女優が、番組のなかで消されてしまって出番がなくなってしまったのがあったような…)
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