TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 『ロジャー・ラビット』と収益配分訴訟(1)

 『ロジャー・ラビット』('88)は、実写とアニメの合成が話題になった映画だ。1947年のハリウッドを舞台に、彼らの住む漫画の町“トゥーン・タウン”の利権をめぐる殺人事件をミステリー・タッチで描いたドタバタ・コメディーで、ロバート・ゼメキス監督作品。スピルバーグ監督が率いるアンブリン・エンターテインメントとウォルト・ディズニーが共同で製作した。世界中からの興行成績は3億5,000万ドルを記録するヒットとなった。ビデオやロジャー・ラビット・グッズも販売され、収益を生み出している。と同時に、『ロジャー・ラビット』は、訴訟のターゲットともなっている。
 映画『ロジャー・ラビット』には原作者がいる。ギャリー・ウルフという作家が書いた『Who Censored Roger Rabbit?』が映画の元ネタとなっている。ディズニーとアンブリンは、この小説とそこに表れるキャラクターを使って映画化を企画することに決めた。企画をすすめるためには、原作者から映画化権を買い取らなければならない。ディズニーは、まず原作者との間でオプション権の契約を結んだ。1981年のことだ。そして、脚本を作り、監督や主演などのキャスティングのめどをつけながら、1983年には原作者との間で映画化権を買取る契約にこぎつけた。

 83年契約によると、原作者であるウルフは、ディズニーに対して、小説の権利とロジャー・ラビットのキャラクター権を売り渡した。その代償として、いくばくかの前金をもらい、将来映画が生み出す収益からの配分、そしてキャラクター収益からの配分をもらえると約束されていた。ここで問題となってくるのが、“収益配分”の部分だ。収入が多ければ、収益配分も当然のことながら増えるはず。いくら収入があり、そこからいくら経費などが差し引かれ、原作者にいくら支払われるのか…。お金の流れはとても不透明だ。ロジャー・ラビットも、くまのプーさん同様、ディズニーから支払われるべき収益配分をめぐり、訴訟に巻き込まれている。
 映画がヒットし、ビデオやグッズが売れているのに、何か変だ。ディズニーの収益配分の報告書に不信をいだいたウルフは、ディズニーに対して『ロジャー・ラビット』の収益を記録した会社の帳簿を見せるよう要求した。帳簿を検査する権利は、Audit rightsと呼ばれる。通常、何らかの権利を許諾し、その対価として許諾者が収益配分にあずかるような場合、契約相手が収益を少なめに報告して、収益配分をごまかしているのでは? と不信をいだくのはよくあること。そういった場合、契約相手の関連帳簿を開示してもらい、もし数字に間違いがあればその不足額を支払ってもらうことができる。

 したがって、契約相手が管理している関連帳簿にアクセスできるよう契約上で規定することが大切だ。ロジャー・ラビットのウルフも、帳簿を検査する権利をもっていた。そしてその権利を行使した。しかし、ディズニーはウルフの要求に従わなかった…。
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