TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 「キャプテン・アメリカ」の生みの親と著作権問題(2)

 アメリカの著作権法は、著作権者にいくつかの場面で権利を再交渉できるチャンスを与えている。

 たとえば、「裏窓」訴訟で取り上げた著作権の更新問題(eigafan.com連載1を読んで)。著作権を更新することができるのは、著作権者もしくは死んでいればその遺族のみに限られる。著作権者(もしくは遺族)がその権利を譲渡してしまっていても、権利を行使しないことを契約書で約束していても、大丈夫。著作権者のみが権利を更新でき、更新後の著作権は別交渉となる。権利を買った人は再度契約を交渉しなければ、これを利用することはできない。

 何故か? 著作権者が一方的に不利な条件で権利を譲渡してしまったり、市場価値よりも安値で売ってしまった場合でも、著作権の更新時期にもう一度交渉することができるからだ。つまり、遺族にもセカンド・チャンスが与えられ、もっと良い条件で再交渉することができるということだ。著作権者を保護することが、文化や芸術、創作性を振興するという著作権法の趣旨にかなっていると考えられて立法された。
 もうひとつのチャンスは、著作権を譲渡してしまっても、著作権者は56年後にその権利を取り戻すことができるというもの。1976年著作権法第304条(c)に規定される。権利を譲渡しても、取り戻すことができるの? どうしてなの? 権利を買った人はどうなってしまうの? もし、その権利にもとづいて、二次的著作物を作っていたり、第三者にライセンスしていたら、その人たちの権利はどうなってしまうの? といった疑問が起こるだろう。

 たとえば、著作権者がアニメのキャラクターに関する著作権をスタジオAに譲渡したとしよう。スタジオAは、そのキャラクターを使ってアニメーションを作り、テレビ放映し、マーチャンダイジングの権利をおもちゃ会社Bにライセンスしたとする。よくあるビジネス・モデルだ。しかし、著作権者が56年後に譲渡した著作権を取り戻した場合、スタジオAは権利を失ってしまい、これを利用することはできない。これは明白だ。スタジオAからライセンスを受け、マーチャンを売ってきたおもちゃ会社Bは、在庫を売り続けることができるであろうか?? といった問題が起こる。
 著作権を56年後に取り戻すことができるという立法もまた、著作権者にセカンド・チャンスを与え、より良い条件で再交渉できるよう配慮したものだ。そして、「キャプテン・アメリカ」の著作権者もこの法律に依拠して、著作権をマーベルから取り戻そうとしたのであった。1999年12月にサイモンは、著作権取り戻しの手続きを著作権局で行った。これに気付いたマーベルは、権利を確定させるためにサイモンを被告として訴訟を提起した。

 マーベル対サイモンの訴訟。サイモンに分があると思えた。しかし、サイモンが「タイムリー・コミックス」との間で1966年に争っていた訴訟がクローズアープされてくる。彼は1969年に訴訟を和解するためにある合意をしていたのだ。その合意とは、サイモンが「キャプテン・アメリカ」を「職務著作」として創作したということだ。何故サイモンがこんな合意をしたのか分からないが、もし「職務著作」だとしたら、著作権はサイモンでなく「タイムリー」のものとなる。「タイムリー」を買収したマーベルが著作権者であるから、サイモンが著作権をマーベルから取り戻すことはできなくなってしまう。
 マーベルがサイモンを被告として提訴した権利確認の訴訟で、第一審である連邦地方裁判所は同様の判断をし、マーベルが「キャプテン・アメリカ」の著作権者であり、サイモンには著作権を取り戻すことはできないとした。これに不服なサイモンは上訴した。上訴審はサイモンの「職務著作」の合意書は、彼の著作権を取り戻す権利を奪うものではないと判断。なぜなら、「職務著作」であるかどうかは、事実関係を認定してはじめて明らかになるものだからだ。「職務著作」の合意書があっても、本当に「職務著作」かどうかは事実関係を明確にすべきだ、ということだ。マーベルの主張は認められず、裁判は差し戻された。判決はこちらで読むことができる。
■http://csmail.law.pace.edu/lawlib/legal/us-legal/judiciary/second-circuit/test3/02-7221.opn.html> http://csmail.law.pace.edu/lawlib/legal/us-legal/judiciary/second-circuit/test3/02-7221.opn.html
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