TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 肖像権 v. 表現の自由(1)

 肖像権(right of publicity)とは、顔や名前を売り物にしているタレントや著名人に与えられた権利だ。有名人の顔や名前を使って商品を売れば、その商品は売れる。したがって、有名人にその使用対価を支払わなければならない。つまり経済的な権利ということだ。アメリカでは民法第3344条に規定される。

 表現の自由を重んじる国、アメリカ。肖像権を無制限に認めているわけではない。たとえば、ニュース報道や公的な場面での議論などで他人の肖像権を使用するときは、表現の自由が優先される。また、肖像権は、パロディとか批判、評論に使用される場合にも制限される。具体的にはどういった場合、表現の自由が肖像権の行使を制限するのであろうか? 今年の6月2日に下された判決を見てみよう。
 原告となったのはアメリカのミュージシャンであるウインター兄弟。70年代に有名になったテキサス出身のR&Bミュージシャン、ジョニー・ウインターと弟のエドガー・ウインターだ。ジョニーはブルースギタリストとして有名で、エドガーはサックスを担当していた。その容貌は、真っ白に近いプラチナブロンドの長髪と蒼白顔で、不思議な雰囲気をもっている。彼らに訴えられたのは、「バットマン」や「スーパーマン」でお馴染みのDCコミックスというアメコミ誌。

 DCコミックスは、90年代に「ジョナ・ヘックス(Jonah Hex)」というミニシリーズを発行した。5回にわたる連載もので、主人公は、Jonah Hexというアンチヒーロー・キャラクターだ。主人公の脇を固めるつわものは、巨大な虫男やカウボーイたち。西部劇風のいでたちなのだが、かなり気味が悪い。この中にオータム兄弟というキャラクターが登場する。ひとりはシルクハットをかぶり、赤いサングラスをかけ、ライフルを握りしめている。もうひとりは真っ赤な目をしており、ピストルを握っている。この兄弟は、虫と人間とのハーフという生い立ちをもつため、グロテスクに描かれている(と著者は思う)。最後の章で、主人公とのバトルで射殺されるというお話だ。
 ウインター兄弟は、DCコミックスに登場するオータム兄弟が自分たちのことだと判断した。共通点としては、真っ白な長髪と蒼白顔が一致する。他にも、ウインター兄弟のセリフがコピーされている。それはシェークスピアからの引用で、「われらが不満の冬(the winter of our discontent)」という言葉が、DCコミックスの中で、「われらが不満の夏(Autumns of Our Discontent)」というタイトルで使用されていた。

 類似点はこういったものなのだが、ウインター兄弟は、自分たちとよく似たオータム兄弟がDCコミックスの中で「下劣で、堕落した、馬鹿で、卑怯で、人間以下の生き物」として描かれていたことを憤慨に思ったのであろう。ウインター兄弟対DCコミックスの裁判。カリフォルニア州(ロサンゼルス郡)の最高裁判所は、被告であるDCコミックスの主張する表現の自由を優先させ、ウインター兄弟の肖像権を制限した。それは何故か?
■ジョニー・ウインターの公式サイトは、> http://www.johnnywinter.net/
■エドガー・ウインターの公式サイトは、> http://www.edgarwinter.com/
■DCコミックスの公式サイトは、> http://www.dccomics.com/
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