TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 肖像権 v. 表現の自由(2)

 前号に引き続き、ウインター兄弟対DCコミックスの裁判のゆくえ。

 なぜ有名人であるウインター兄弟の肖像権が制限されるのか? カリフォルニア州裁判所はこう判断した。「有名人たちの肖像権を無断で使用することが、その経済的な価値を失わせるものである場合には、表現の自由では保護されない。しかし、有名人たちのイメージや顔などを使用した創作物が、単なる使用ではなく、それ以上の何らかの重要な付加価値が加えられ、その結果本人の経済的な価値とは別個の表現となったような場合には、表現の自由が優先される」(判決から)
 では、どういった価値が付け加えられた場合に、表現の自由で保護されるのであろうか? 有名人の許諾のないコピーが出回ってしまうと、本家本元にお金を支払って買う人が少なくなってしまう。そうすると、肖像権をもつ有名人の取り分が減ってしまう。だから不法だ。しかし、有名人といえども、肖像権は無限ではない。もし、ある有名人のイメージを基にしても、重要な付加価値を加えて、原型をとどめないくらい変えてしまった場合には、別個の創造物となる。よってその表現の創作性を優先してあげようというのが趣旨のようだ。

 具体的には、2001年4月30日に判決が下された別の肖像権を巡る訴訟が分かりやすい。これは、アメリカの60年代にヒットしたテレビ番組の「3ばか大将」のキャラをそのままTシャツにプリントして売って訴えられた裁判である。同じようにカリフォルニア州ロサンゼルス郡の裁判所が舞台だ。この裁判では、被告会社は「3ばか大将」の主人公たち、モー、ラリー、カーリーらの顔をそのままコピーして、リトグラフ調にTシャツに印刷して無断で販売していた。それが見つかって権利者に訴えられたというわけだ。

 有名人には肖像権があり、そのイメージを自分の経済的な利益のために使用することができる。その権利を侵害することは表現の自由では守ることはできない。有名人の顔をそのままコピーしたTシャツを無断で売ることは、その利益は権利者のポケットには入らないわけで、肖像権侵害になる。この裁判はきわめてストレートなケースであるといえよう。

 ウインター兄弟対DCコミックスの裁判に話を戻そう。肖像権対表現の自由の争いは、事実判断によらざるを得ないようだ。裁判所は、DCコミックスにあらわれるウインター兄弟ならぬオータム兄弟は、本家とは別個の創造物になっていると考えた。すなわち、オータム兄弟はDCコミックスのクリエイティビティや創作力、そしてアーティストが作り上げた独立したアートであり、ウインター兄弟とは全く別ものと判断された。したがって、オータム兄弟の存在がウインター兄弟のレコードやグッズの売り上げに影響したりしないし、ご本家にとってかわるものではない。ウインター兄弟の経済的な利益が損なわれるものではない以上、かれらの肖像権を優先することはない、というのが裁判所の判断だ。
 有名だからこそお金になる肖像権。有名であるがために本人の意に反した使われ方をされる。もしかしたら、平凡な方が安泰な生活を送れるのかも……。
■最高裁判所の判決で「オータム兄弟」をみることができる。> http://www.courtinfo.ca.gov/opinions/documents/S108751.PDF
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