TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 アメリカ著作権法講座 ― 権利の保護 -

 アメリカで映画を作る場合、どういった点に注意しなければならないかをアドバイスする。劇場用映画だけでなく、テレビ番組やテレビ映画を製作する場合も同様だ。

 第一に、映画の元ネタの権利クリアランスが必要だ。大きく分けて、原作がある場合とない場合で権利の処理の仕方がまったく異なる。原作がある場合とは、ベストセラーの小説を映画化する場合、実話を映画化する場合、旧作や海外の映画をリメイクする場合、漫画やアニメの実写化や、映画の続編を作る場合などが考えられる。
 原作がある場合、原作者から映画化する権利の許諾を得なければならない。映画化権のお値段はピンからキリまで。アメリカでは、弁護士作家ジョン・グリシャムやシドニー・シェルダン、医者で作家のマイケル・クライトンといった有名作家から映画化の許諾を受ける場合、億単位の許諾料が支払われる。その際、映画化権の取得契約もしくはオプション契約を結ぶことになる。最近ハリウッドで盛んな旧作のリメイクの場合、旧作の原作権をもった人、もしくは会社と、映画化権の取得契約ないしオプション契約を結ぶことになる。

 映画会社やプロデューサーは、原作者から映画化権を取得する際、全額を一括で支払うことはしない。金額が多ければ多いほど、分割払いを好む。映画のデベロップメントを始めても、途中で資金ショートしたり、製作資金が調達できなかったりすることがある。映画企画そのものがボツになる場合も多い。その場合のリスクを考えなければならない。
 映画会社やプロデューサーは、原作者との間で、オプション契約Option agreementという映画化権をオプションする権利を買う場合が多い。オプション金額は、映画化権のお値段の通常10%だ。オプション期間は12ヶ月から24ヶ月。更に10%支払って、12ヶ月延長することも可能だ。オプション期間中に脚本をおこし、監督、撮影監督や主演俳優たちとの契約交渉を行い、資金調達が可能かどうかを探る。製作の見通しがたてば、オプション権を行使して、映画化権を買い取る。その際、映画化権といままで支払ったオプション金額の差額を支払うことになる。映画企画がボツになった場合、オプション権を行使しない。払ったオプション金額は戻ってこない。これも映画会社やプロデューサーのリスクだ。

 オプション契約では、原作者が映画化権を許諾することができることを証明する書類が求められる。一般にチェーン・オブ・タイトルchain of titleと呼ばれる書類だ。不動産の登録証のようなものを想像してもらいたい。原作者の場合、自分がその小説を書いたことを証する書類として、著作権登録証が求められる。著作権登録は、発行してから5年以内に登録されていると、著作権が推定されるという効果がある。権利が推定されるので、自分が権利者であることを証明する手間が省かれる。もし、類似の原作があった場合どうなるか? パクリの場合もあれば、偶然もありうる。これは別の機会にご説明しよう。著作権登録を扱う著作権局Copyright Officeはアメリカ連邦政府であり、登録を行う法的なメリットは多い。登録手続きはいたって簡単。自分の権利は自分で守ることをおすすめする。
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