TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 株主代表訴訟 - ディズニーの場合1

 アメリカを代表する巨大メディア企業ディズニー。映画、テレビ、ホーム・ビデオ、音楽、出版、キャラクター・グッズ、テーマパーク、リゾートなどの複合ビジネスを傘下に置く。マイケル・アイズナーの長期政権下で、『ライオン・キング』('94) 『トイ・ストーリー』('95) 『アルマゲドン』('98)『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』(03) 『ファインディング・ニモ』(03) などのヒット作を生み出した。
 長期政権は、繁栄のみならずトラブルをも生み出す。それは当時の社長フランク・ウェルズが飛行機事故で死んだことから始まった。1994年のこと。社長のポストをめぐって、アイズナーとその後継者と見られていたジェフリー・カッツェンバーグとの間で確執が表面化し、結局カッツェンバーグのディズニー退職とディズニーに対する訴訟という形で終結した。裁判の経過は本サイトの31号と32号に掲載されているので、ご参照。

 ディズニーのトラブルはこれで終わらない。アイズナーが社長として任命したのはマイケル・オービッツという25年来の親友であった。オービッツはご存知スーパー・エージェントと呼ばれ、ハリウッドでも恐れられていた人物だ。UCLAで芸術を専攻し、卒業後すぐにエンターテインメント業界に入り、1975年クリエイティブ・アーティスト・エージェント(CAA)を創設、トム・クルーズ、ロバート・デ・ニーロ、といった大物スター、スピルバーグ監督、スコセッシ監督らを代理していた。

 アイズナーに引き抜かれてディズニーの社長の座をゲットしたオービッツ。しかし、ディズニーでの業績は思わしくなく、14ヶ月で退職。退職金はサラリー、ボーナス、そしてストック・オプションを含み、総額1億4000万ドル(約150億円以上)と換算される。一月あたり1000万ドル(約11億円以上)稼いだ計算になる。在職中大した“貢献”もせずに、巨額な退職金を手にしたため、ディズニーの株主たちから“お手盛り”ではないかと株主代表訴訟を起こされた。
 ディズニーの株主たちは、ディズニー、オービッツそしてアイズナーを含む当時の取締役たちを相手取って、デラウエア州の裁判所Delaware Chancery Courtに株主代表訴訟を提起したBrehm v. Eisner。第一審裁判所では、原告側の訴状の事実記載に不備があるという理由で棄却された。納得いかない原告側は上訴して争った。そして、上訴審であるデラウエア最高裁は原告側に訴状を書き直し、事実関係を争うことができるチャンスを与えた。原告らは訴状の事実関係を書き直し、裁判で争うべき事実があることを証明することによって、再びオービッツとアイズナーらを裁判所に引き戻すことになったのであるIn re the Walt Disney Company Derivative Litigation 825 A.2d 275 (Del Ch.2003)。

 被告となったディズニー、オービッツそしてアイズナーを含む当時の取締役たちは予想外の訴訟展開で、自分たちの経営判断に非がなかったことを防御していかなければならい羽目となった。

 会社とは誰のためのものか? 会社は株主のものである。株主に選任された取締役らは経営幹部らに会社経営を委託する。会社の幹部の職務は、会社の利益を最大限追求することにある。幹部が会社の利益をそっちのけにして、自分の友達に一方的に有利な雇用契約を会社に結ばせた上、やめる時には最大限有利な退職金を給付して良いものであろうか?きちんとした情報開示なく、また調査をせずに一方的な幹部の取り計らいを容認していた取締役たちの責任はいかなるものか?アメリカのみならず日本でも問題となっている企業経営者の個人責任を問うものでもある。
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