TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 揺れるディズニー帝国 1


 ディズニー帝国が揺れている。ディズニーの株主であるロイ・ディズニーとスタンリー・ゴールドが、20年近く長期政権を死守してきたマイケル・アイズナーの退陣を求めて戦っているからだ。今年3月3日フィラデルフィアで行われたディズニーの株主総会で、アイズナーの再任不支持に投じた株主は43%に達した。ディズニーの取締役会は株主たちをなだめるため、アイズナーの地位を変えることを決定した。すなわち、今までCEO(最高経営責任者)とChairman(会長)という二つの肩書きをもっていたアイズナーは、同日付で会長職を手放すことになった。
 3月3日の株主総会に出席した株主は3,000人。発行済み株式総数は21億株で、そのうち85%が決議権を行使したそうだ。総会でスピーチをおこなったロイ・ディズニーとゴールドには、株主たちから拍手喝采がやまなかったという。株主たちの関心の高さを窺える。

 とりあえず退陣を避けることができたアイズナー。しばしの間安心といったところか。
しかし、これで火種が消えたわけではない。根はもっと深いようだ。事の起こりは2003年末。ロイ・ディズニーとゴールドがディズニーの取締役会退陣を余儀なくされたことに端を発する。ロイとは、ご存知ディズニー創始者であるウォルト・ディズニーの甥である。と同時に、ディズニーのアニメ部門の会長と取締役会の副会長でもあった。長い間にわたってディズニーの栄光と衰退、そして復活を見守ってきた人間だ。誰よりもディズニーという会社を愛しその成長を願ってきたといわれる。ロイとともにアイズナー反対陣営にいるのは、ロイ同様ディズニーに貢献してきた弁護士のスタンリー・ゴールドだ。2人は、アイズナーの経営方針と会社の業績に不満を表明し、他の株主たちにもアイズナー退陣を呼びかけてきた。
 彼らがアイズナー退陣を求める根拠とは何か? まず、ディズニーの収益が悪化しており、株主たちに対して十分なリターンを生み出していない点を挙げている。2人の2004年3月1日付けの書簡によると、ディズニーは1996年から2003年までの間150億ドル(1兆6,000億円以上)を超える投資を行ってきたが、2003年度の営業利益は32億ドル(3,300億円)にすぎない。1996年度の営業利益は35億ドル(3,600億円)であったので、実質マイナス成長ということになる。株価は50%に下落した。にもかかわらず、ディズニーの幹部5名は経営責任をとるどころか、3年間に7,000万ドルもの給料をとってきたと指摘している。だから、幹部の総入れ替えをすべきだ。そして会社の成長とクリエイティブな経営のできる有能な人材を登用すべきと。アイズナーが退陣した暁には、5~10くらいの有能な後継者候補を考えているそうだ。また、12年間ディズニーにドル箱アニメ映画を提供してきたピクサーとの関係を悪化させ、破綻させた責任もアイズナーの経営手腕に問題があるとしている。

以下はピクサー・アニメが劇場で稼いだ興行収入額だ。劇場でヒットした映画は、ビデオやDVD、テレビ放映、サウンドトラック、そしてマーチャン、グッズ販売、海外市場で稼ぎ続ける。

・『ファインディング・ニモ』
   北米:3億3,900万ドル 北米以外:5億1,000万ドル
・『モンスターズ・インク』
   北米:2億5,500万ドル 北米以外:2億7,300万ドル
・『トイ・ストーリー2』
   北米:2億4,500万ドル 北米以外:2億3,900万ドル
・『トイ・ストーリー』
   北米:1億9,100万ドル 北米以外:1億6,600万ドル
・『バグズ・ライフ』
   北米:1億6,200万ドル 北米以外:1億9,500万ドル
 ディズニーの頭痛の種はこれだけではない。本サイトでもご紹介したディズニー株主代表訴訟だ(第77回、78回参照)。14ヶ月という短い在籍で、何らの貢献もなく、1億4,000万ドル相当の退職金をゲットしたマイケル・オービッツを巡る訴訟だ。納得いかない株主たちはオービッツ、アイズナーそして取締役会幹部らを相手に株主代表訴訟の真っ只中にある。現在、デラウエア州の裁判所で審理中。その上、ケーブルテレビ最大手であるコムキャストからは買収をかけられている。
■ディズニーを救え!> http://www.saveDisney.com
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