TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 「くまのプーさん」訴訟の顛末

 1991年から始まったスレジンジャー対ディズニーの訴訟。
「くまのプーさん」訴訟は本サイトの43号と44号でもご紹介したが、この訴訟が意外な顛末を迎えた。ロサンゼルス上級裁判所は、原告であるスレジンジャーの訴えを却下したのである。それは何故か? スレジンジャーが私立探偵を雇って、ディズニーが廃棄した内部書類をあさり、不法にゲットしたからだという。

 原告側は内部書類をゲットしたことは認めたが、その書類はディズニー社の近くに放置されたゴミ箱に捨てられているものを拾ってきたものだから何ら違法ではない。以前からディズニーが会計をごまかしていることに疑いをもっていたスレジンジャー親子。探偵を使ってディズニーの内部書類をゲットするという暴挙に出てしまったそうだ。
 チャールズ・マッコイ判事は、書類はスレジンジャーが主張する「“ゴミ箱”にあったのだから秘密書類ではない」という反論を退け、かれらの行為は不法と判断した。裁判制度の根幹を揺るがすものであり、当事者への制裁の意味が強い。こうして13年にわたって争ってきた原告の請求を退けた。負ければ巨額な損害賠償を支払わなければならないディズニーはこの判決に大喜び。株価の低迷、収益の低下、マイケル・アイズナー退陣を求めるロイ・ディズニーらの反乱、コムキャストからの敵対的買収申し出など、ゴタゴタ続きのディズニーにとって、一筋の希望の光といえる判決だ。

 ことの起こりは「くまのプーさん」の権利。いち早くプーさんに目をつけたのがスレジンジャーのパパ。原作者からプーさんのマーチャンに関する権利をゲット。その対価は、1930年当時で1,000ドルという破格なお値段であった。
 プーさんの権利に興味をもったのは他にもいた。それはディズニーだ。ディズニーはプーさんの映像化権をゲットし、アニメに出演させ、大スターに育てた。映画が売れれば、グッズも売れる。パパの死後遺産としてキラーコンテンツの権利を手にしたスレジンジャー親子。ディズニーにしてみれば、プーさんを数10億ドル生み出すにスターにしたのは自分たちのおかげだ。何も貢献していないのに巨額のライセンス料を手にするスレジンジャー親子に不満も見え隠れ。スレジンジャー親子は既に6,000万ドル(70億円)以上のロイヤルティをディズニーからもらっている。

 誰よりも早く権利をゲットしたものの勝ち。権利ビジネスは、先に権利を押さえたものが勝者となる。
 スレジンジャー親子によると、20年にわたってディズニーがプーさんグッズの売り上げを過少報告してきた。少なく見積もっても3,500万ドルものロイヤルティが未払いとなっている、と主張する。さらに、プーさんのビデオやコンピューターゲームからの販売も入れると、ディズニーの未払い額は3億ドルにもなるという。プーさん訴訟を巡るゴタゴタはスレジンジャー側だけではなかった。ディズニー側は会社の書類を封印し、当事者以外が見ることができないようにしてきた。また、ディズニーは1992年から98年の間に、40箱以上のプーさん訴訟を含む関連書類をシュレッダーにかけてきたため、マッコイ判事の前任者であるアーネスト・ヒロシゲ判事によってペナルティを受けている。
 シュレッダー騒動に、ゴミ箱あさり。どっちもどっちの訴訟だ。この判決が確定すると、スレジンジャーはディズニーを相手に同じ内容の訴訟を起こすことはできなくなる。訴訟での争点であったロイヤルティの金額の問題、そしてもう一点、1983年の契約にプーさん関連のビデオやゲーム・ソフトが含まれるのかどうかは審理されることなく裁判は終結する。もっともスレジンジャー側には上訴という手がある。スレジンジャー対ディズニーの訴訟。多額の訴訟費用を使いながら、プーさんを巡る訴訟はこれからも続くのであろうか。
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