TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 デジタル時代の著作権侵害訴訟

 コンテンツをデジタルで保存し、そのコピーを友達に送る。デジタルコピーを受け取った人は更に別の友人に送る。知らないうちに、多くの人たちがコピーを共有する。ピアツーピアと呼ばれるネットワークだ。デジタルなので質落ちしないので友達の輪は広がり続ける。そして誰も著作権者に対して使用料を支払わない。デジタル技術が進む現代が抱える問題だ。
 音楽業界では近年ファイル交換ユーザーに対する厳しい取締りが始まっている。音楽会社の利益を代表する団体である全米レコード工業会(RIAA)は、2003年末から音楽交換ファイルを利用して音楽をダウンロードして配布した個人ユーザーたちを摘発はじめた。個人ユーザーを訴えるという強硬手段だ。すでに約2000人ほどが著作権侵害訴訟を理由に、アメリカの裁判所で訴えられている。違法なファイル交換ソフトとしては、カザー(Kazaa),グロックスター(Grokster)といったのが有名だ。

 こういったソフトが著作権で保護されている音楽をダウンロードすることを可能にしている。その結果、ファイル交換を利用して、音楽をダウンロードした個人ユーザーまでが著作権侵害訴訟の対象となってきた。
 音楽業界で始まったファイル交換による著作権侵害問題。ピアツーピアによるコピー交換はいずれ映画業界でも起こるであろうと言われた。そして映画業界ではこういった形で起こった。パーソナル・ビデオ・レコーダーの登場によって。

 パーソナル・ビデオ・レコーダー(PVR)とは、ビデオ・カセット・レコーダー(VCR)のようなもの。違う点は、VCRのようにテープに保存しない。内臓されたハード・ドライブに保存する。あるテレビ番組を見ながら同時に裏番組をハードに保存することができる。こういった機能を搭載したPVRが販売されて、テレビ視聴者から人気を博している。しかし、PVRに関してあるフィーチャーがアメリカで問題となっている。

 どういったフィーチャーかというと、ひとつは、地上波テレビ番組で当然のことに流れるコマーシャルをすべて自動的にカットしてしまうこと。コマーシャルぬきの番組が保存される。2つ目は、保存した番組がデジタルに変換され、そのコピーを同じ機種をもった友人に転送することができる。ただし、転送できる相手先は15名に限定されているが……。一度テレビで放映された番組がコマーシャルカットでデジタル保存されて転送可となると、コマーシャルで広告収入を得ているテレビ局や使用料をもらっている著作権者にとっては一大事だ。
 コンテンツをもった著作権者たちはこういった機能をもつReplayTV4000を開発し、販売した会社を著作権侵害でカリフォルニア州連邦裁判所に提訴した。原告として、パラマウント、ディズニー、20世紀フォックス、ユニバーサル、コロンビア・ピクチャーズ、MGM、ワーナーブラザースといったスタジオ系、そしてCBS、NBC、ABC、フォックスといったテレビ系など多数メディア企業が参加している。被告となったのは、リプレイTV社(ReplayTV)とその親会社であるソニックブルー社(SONICblue)であった。
※Paramount Pictures v. ReplayTV Case No. 01-9358.

 ここで問題がある。もしReplayTV4000に著作権間接侵害の責任があると判断された場合、ReplayTV4000を使用している個人ユーザーたちは著作権侵害に問われるのであろうか? 潤沢な資金をもったメディア企業から訴訟を提起される可能性はあるのであろうか?現実に、パラマウント対リプレイTV社訴訟で、裁判官は被告に対して、ReplayTV4000を使っている個人ユーザー情報を提示するよう求めている。どんな情報かというと、「個人ユーザーがどの番組を保存したのか、カットされたコマーシャルは何か、どの番組を友人に転送したのか……」などである。個人情報が開示されると、個人ユーザーが訴訟のターゲットとなる可能性大である。懸念した個人ユーザーたち5名は裁判所に対して、自分たちは著作権侵害をしていないことの判断を求めて提訴していた。
 しかしパラマウント対リプレイTV社訴訟は意外な結果を迎える。リプレイTV社の親会社であるソニックブルー社は訴訟費用の負担に耐え切れず破産を申し立てた。2003年4月25日、破産裁判所の許可を得て、その資産をデジタル・ネットワークス・ノース・アメリカ社(DNNA)に売却する。DNNAはこの裁判で問題となっているふたつのフィーチャーを撤廃したReplayTVを販売することになった。本訴で争われていた著作権侵害の問題は消滅したので、2004年1月、原告らは本訴を取り下げた。しかし、個人ユーザーの行為が著作権侵害になるのかどうかは未解決のままだ。
■RepayTVのサイト> http://www.digitalnetworksna.com/about/replaytv
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