TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 インターテインメントv. フランチャイズ・ピクチャーズ訴訟(2)

 先週に引き続き、ドイツ・マネーのバブル全盛期に映画ビジネスに参入したインターテインメント社と、フランチャイズ・ピクチャーズとの制作費を巡る訴訟について解説する。
 フランチャイズが登場したのは、数億ドルという高額な経費を企画の段階で負担してきたスタジオが、経費見直しを始めた矢先である。スタジオとしては、映画に出資せずに、フランチャイズのような独立系制作会社が作った、有名スター主演の映画を配給すれば、プリント代と宣伝広告費の出費だけで済み、リスクを最小限に抑えることができる。まさに、フランチャイズの会長であり創設者でもあるエリー・サマハが編み出した、サマハ方式(※詳しくは87回参照)は、コスト削減時代の流れに合った、絶妙のタイミングだったといえよう。

 『隣のヒットマン』(00)は、ブルース・ウィリスの弟の企画だが、どこのスタジオも引き受けたがらなかった。サマハは、これに出資する条件として、ウィリスらへのギャラの後払いと、カナダでのロケを組み合わせて、4,500万ドルだった当初予算を2,800万ドルに大幅にカットした。結果、この映画は、北米の興行収入だけで5,700万ドルを稼ぎ出し、思わぬヒットとなり、フランチャイズは一躍注目されるようになった。
 そしてジョン・トラボルタが長年映画化を画策していた『バトルフィールド・アース』(00)は、彼が信奉するサイエントロジーという宗教家の書物の映画化企画であった。どこのスタジオからも相手にされなかったこの企画を救ったのがサマハである。彼は、この映画でもサマハ方式を適用した。トラボルタはギャラのカットと、後払いを了承した。カナダでのロケで更に制作費を節約した。サマハは当初の予算を1億ドルから、その半分にカットしたと言われる。残念ながら、こちらは興行的にも評論でも失敗に終わった。
 フランチャイズと“アウトプット”の契約を結んでいたインターテインメント社の主張によると、フランチャイズは、この制作費予算を実際よりも大きく膨らませていた。例えば、『隣のヒットマン』に対し、フランチャイズが提示した予算は4,125万ドルだったが、実際には、2,361万ドルで作られていた。また、『バトルフィールド・アース』では、5,500万ドルと言われたが、実際の制作費は4,379万ドルだった。“水増し”予算を元に負担額を計算したがために、インターテイメント社は、本当の制作費の47%どころか、遥かに高額の支払いを強いられたと主張する(訴状から)。フランチャイズの制作費に疑問をもち始めたインターテインメントの北米代表であるスティーブン・ブラウンによると、同社は制作費の90%近くまで負担させられた映画もあるという(バラエティ誌から)。
 インターテインメントは、この訴訟で、フランチャイズに融資していたインペリアル・バンク(現在コメリカ)をも訴えている。インペリアル・バンクは、インターテイメントが差し入れる配給契約を担保に、フランチャイズに対して制作費を融資するので、配給契約で合意された金額が大きければ大きいほど、担保を大きくとることができ、フランチャイズによる制作費予算の“水増し”によって利益を受けるというわけだ。インターテインメントの主張によると、「融資元であるインペリアル・バンクが本当の制作費予算を知らない訳がない。銀行も共謀して、インターテイメント社を騙していた」という(バラエティ誌から)。 融資銀行に完成保証ボンドを提供したボンド会社も訴えられている。
 インターテインメント対フランチャイズの訴訟は4月20日陪審裁判を迎えた。証人として喚問されているフランチャイズのサマハ会長は、インターテインメント会長のバリー・ベアスとの間に密約があり、インターテインメントは水増し制作費を負担することに同意していたという。当然のことながら、応戦が予想される。ちなみにサマハ会長と同様、個人で被告となっている元フランチャイズ社長のアンドリュー・スチーブンスは、陪審裁判が始める前日4月19日、インターテインメントとの間で和解をして訴訟を取り下げてもらい自由の身となった。
■インターテインメント社> http://www.intertainment.de/en/home.htm
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