TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 著作権と商標権-1

 アメリカの著作権の保護期間は、いつ著作物が発行されたのかによって異なる。1978年1月1日以前に発行された著作物は、1909年法に従い発行の日から95年保護される。これに対して、1978年1月1日以降に創作された著作物は、1976年法が適用され、著作者の死後70年となる。職務著作の場合には、保護期間は発行の時から。職務著作の場合は、発行の時から95年もしくは創作の時から120年のいずれか短い期間が適用される。保護期間を過ぎた著作物はパブリックドメイン(権利消滅)となる。
 パブリックドメインとは、著作権が消滅してしまい、独占的な権利でなくなることをいう。パブリックドメインになった著作物は、みんなのもの。誰でも自由に、誰からの許諾をえることなく、これを勝手に利用することができる。但し、商標権とか肖像権とかがある場合は別のお話。これら別途権利の使用許諾を得なければならない。

 アメリカでは、保護期間の満了の他、いろいろな事情でパブリックドメインとなる。たとえば、1978年1月1日以前に創作した著作物に著作権表示を忘れて、発行してしまったり、著作権登録の更新を忘れてしまったりすると権利が切れてしまう。
 では、アメリカでパブリックドメインになった映画を、アメリカ国内でDVD発売することは可能であろうか? たとえば、パブリックドメインになったクラシック映画のビデオをそのままコピーして、自社のロゴとブランド名でDVDを売り出したらどうなるか? 著作権法の問題ない。なぜならパブリックドメインは保護されないからだ。注意しなければならないのは商標権法の問題だ。アメリカのランハム法(商標権法)では、消費者が商品の出所を誤解するような標記を禁じている。

 ランハム法43条(a)では、“…false designation of origin, false or misleading description of fact, or false or misleading representation of fact, which… is likely to cause confusion…. as to the origin… of its goods”と禁止しており、他人の商品を自分の商品かのように売ることはできない。
 それでは、パブリックドメインになったクラシック映画に少し編集を加え、パッケージを変えてから、自社ブランドでDVD販売した場合はどうか? 2003年6月2日、アメリカ連邦最高裁判所は商標権法違反なしと判断した。ダスター対20世紀フォックスその他(Dastar Corp. v. Twentieth Century Fox et al. No.2-428)

 どういった裁判かと言うと、ダスターという会社が著作権の切れた「クルセード」というテレビ番組を編集し、パッケージを自社ブランドに変えて、「キャンペーン」というタイトルでビデオ販売した。そうしたら、ビデオ化権を保有している20世紀フォックス(以下フォックス)から商標権法違反で訴えられたというわけだ。
 「クルセード」とは第二次世界大戦で活躍した司令官、ドワイト・アイゼンハワー将軍がヨーロッパでの戦いを元に執筆し、1948年にアメリカで出版した著書「Crusade in Europe」をテレビ化した26話からなるシリーズ。フォックスはその著作物の独占的テレビ化権を取得して、1949年から「クルセード」を放映した。出版元であるダブルディ社は1948年に著作権を登録し、1975年に更新登録を行ったので、アイゼンハワーの同著書は現在でも著作権保護されている。フォックスは「クルセード」の著作権を登録したが、更新手続きをしなかったため、「クルセード」の著作権は1977年に消滅した。その後フォックスは、1988年再びアイゼンハワーの同著書に基づくテレビ化権・ビデオ化権の独占権を取得した。フォックスの許諾を受け、SFMエンターテインメントとニューライン・ホーム・ビデオは、「クルセード」のビデオ販売をした。ダスターは1995年から「キャンペーン」のビデオ販売を開始した。
 ダスターの「キャンペーン」ビデオ販売は、アイゼンハワーの「Crusade in Europe」の著作権を侵害する。アイゼンハワー側からの使用許諾を受けていないからだ。しかし、フォックスはダスターに対して、アイゼンハワーの著作権を侵害しているという主張をすることはできない。そこで、商標権法違反を理由にダスターを提訴した。
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