TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 著作権と商標権(2)

 先週に引き続き、パブリックドメイン(権利消滅)となった「クルセード」を編集し、パッケージを変えてDVD販売したダスターと、ビデオ化権を所有している20世紀フォックスその他の訴訟について解説する。
 そもそも著作権とは、著作物に関する権利である。あるアイデアが表現となって、直接にまたは機械もしくは装置を使用して著作物を覚知し、複製しまたは伝達することができるものに固定された時、著作権は発生する。著作権法は、文学とか、ドラマ、音楽といった芸術的な表現、その他創作性のある表現を保護する。

 これに対して、商標権法は、商品の出所を示すために使用されるマークとか名前、シンボルなどの表記を保護する。たとえば、ケロッグ、キャンベルスープ、コカ・コーラ、P&Gなどは商標だ。商標権法にはサービスマークもふくまれる。商標と異なる点は、目に見える商品ではなく、サービスの出所を意味する。ホテルや航空会社が提供するサービスを表示するのが、サービスマークだ。どのマークが、どういった商品、サービスを提供するのか出所を消費者に示すとともに、消費者はそのマークに同一の品質を求めることができる。これによって、他社の商品、サービスとの差別化を図り、消費者を保護することができる。
アメリカ連邦政府は以下のようにその違いを説明している。

著作権とは?
 著作権とは、言語著作物、音楽著作物(これに伴う歌詞を含む)、演劇著作物(これに伴う音楽を含む)、無言劇および舞踊の著作物、絵画、図形および彫刻の著作物、映画およびその他の視聴覚著作物、録音物、ならびに建築著作物などの創作者を保護するための法律。

 1976年法では、著作権者に、著作物をコピーまたはレコードに複製すること、著作権のある著作物に基づいて二次的著作物を作成すること、著作権のある著作物のコピーまたはレコードを、販売その他の所有権の移転または貸与によって公衆に頒布すること、言語、音楽、演劇および舞踊の著作物、無言劇、ならびに映画その他の視聴覚著作物の場合、著作権のある著作物を公に実演すること、言語、音楽、演劇および舞踊の著作物、無言劇、ならびに絵画、図形または彫刻の著作物(映画その他の視聴覚著作物の個々の映像を含む)の場合、著作権のある著作物を公に展示すること、など独占的な権利を認めている。
商標権とは?
 商標とは、商品の出所を表示するために、商品に付して流通させるために使用される言葉、名前、シンボルもしくは造形をいう。これに対して、サービスマークとは、商標と同じ機能をもつが、異なる点は、商品でなくサービスの出所を表示し、他社との差別化を図ることにある。「商標」および「標章」とは通常商標およびサービスマークのことを意味する。
 商標権者は、第三者が自分の商標と出所混同させるような類似商標を使用しないよう禁止することができる。州外で商品を流通し、サービスを行うものは特許商標局に商標を登録することができる。

 このように著作権と商標権とは異なった役割を果たす。
 さて、前回のダスター対20世紀フォックス(以下フォックス)の裁判に話をもどそう。ダスターは、パブリックドメインとなったテレビ番組「クルセード」に、最初と最後部分をオリジナルで入れ替え、クレジット部分を変更し、チャプター部分の頭だしとナレーションを付け加えるなどの編集をした。パッケージも自前で作り、「キャンペーン」というタイトルをつけ、自社ブランド名でビデオ販売した。内容的にはフォックスのテレビ番組とほぼ同じであった。「クルセード」はパブリックドメインなので、フォックスの許諾は必要ない。本件で争われていないが、本来であれば物語のモデルとなったアイゼンハワー側の許諾は必要であった……。それがフォックス、SFM、ニューラインの目にとまり、商標権侵害で訴えられることになった。

 第一審と第二審では、「ダスターのビデオには、それがフォックス、ニューラインの作品であることのクレジットがないこと、アイゼンハワーの著書などの出所を表示していない。他社の商品を自社ブランドで売る行為は、消費者に出所の混同を与える」として、商標権侵害を認めた。
 連邦最高裁判所は逆の判断をした。「ダスターはパブリックドメインの商品に加工を加え、あらたな商品として再パッケージをして販売したのだから、ダスター自身がその商品の出所と言える。したがって、ダスターの行為は、ランハム法で禁じる消費者に出所の混同を与える商標の使用ではない」として、フォックスらの主張を退けた。

 連邦最高裁判所は、ランハム法で規定する「“商品の出所”を無制限には拡大解釈しない。“商品の出所”とは、物理的な商品を製造し、市場に流通させることを意味する。その商品のアイデアを考え出した者までを“商品の出所”には含まない。もし、ラスターがSFMとニューラインが販売している「クルセード」ビデオを、そのままコピーし、パッケージだけ自社ブランドで販売した場合には、虚偽の表示であり、出所の混同を起こす。しかしダスターは内容を編集して新たな商品を作って、自社ブランド商品と販売したので、ビデオの出所はダスターと言える。消費者の混同はない」という判断であった。

 著作権が消滅しても、他の権利が明確でなかったり、グレイな場合があるので、利用する際は特別の注意を要する。
■連邦最高裁判所の判決 > http://supct.law.cornell.edu/supct/html/02-428.ZS.html
■連邦最高裁判所の判決(PDF)> http://www.supremecourtus.gov/opinions/02pdf/02-428.pdf
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