TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 バービー人形訴訟(2)

 有名人や政治家を風刺したパロディはアメリカで大人気。しかし、先日“バービー人形”をパロディ化した写真家が権利の侵害だと訴えられた。果たしてパロディはどこまで許されるのか? マテル社対写真家フォーサイスのバービー人形訴訟のつづきをお届けします。

 マテル社の訴状では、フォーサイスの「フード・チェーン・バービー」写真は、マテル社が保有するバービー人形の著作権、商標権そしてバービー人形の顔とか全体の姿を保護するトレード・ドレスという権利(日本では意匠権に該当するかも)を侵害するものであると主張した。

 第一審である連邦地方裁判所は、さまざまな事実検証と証拠開示を経て、2001年8月22日、フォーサイスの写真はフェア・ユースでありマテル社の著作権を侵害しないという判決を下した。商標権侵害のクレームについては、消費者がマテル社のバービー人形がフォーサイスの写真とを出所混同することはあり得ないし、マテル社がフォーサイスの写真をスポンサーしているとは勘違いしないとして、マテル社の主張を退けた。
 著作権の行使を制限するフェア・ユースとは何か? 著作権とはオリジナルな表現を保護する権利だ。独占的な権利が与えられ、これを複製したり、変形したり、そのほかの方法で使用する場合には権利者からの許諾が必要とされる。しかし、著作権が制限される場面がある。フェア・ユースと呼ばれる法理だ。著作権法の究極の目的から一定の要件を満たす場合には、権利者からの許諾なしに他人の著作物を使用することができる。

 たとえば、批評、解説、ニュース報道といった公共目的がある場合などだ。公共性が高い場合には、私的な権利は制限される。フェア・ユースにはパロディや風刺もふくまれる。考慮されるべき要件としては、以下のものがあげられる。
1. 使用の目的および性格。使用が商業目的かどうかも判断の対象となる。
2. 著作権のある著作物の性質。
3. 著作物全体の使用された部分の量と重要性。
4. 著作物の潜在的市場または価値に対して及ぼされるであろう影響。

 上記すべての要件をクリアしなければフェア・ユースにならないかといえば、そうではない。フェア・ユースかどうかは個々の事例が異なるだけに、ケース・バイ・ケースで判断される。

 フォーサイスがバービー人形を使って表現しようとした社会風刺は、アメリカ女性の理想美として、シンボルとしてアメリカ社会に君臨してきたバービーへの痛烈な批判であった。バービー人形が作り上げた女性像とは、女性とは見た目が良くセクシーであるべし、受身で人形的であるべし、といった理想の女性像を社会に浸透させてきた。アメリカ女性はバービー的女性に嫌悪しながら、実は憧れているのかもしれない。
 フォーサイスは、これを逆手にとって、裸のバービーにヘンテコリンなカッコをさせることによって、アメリカのバービー文化に浸っている社会を笑っているのだ。ここまで到達すると、フォーサイスのバービー写真は本家のマテル社から売られていると思う者はいないであろう。独創的でメッセージ性が強いフォーサイスのバービー写真は、単なる人形の表現の粋をはるかに超えてしまった。

 したがって、フォーサイスの表現形態は憲法が保証する表現の自由で守るべきもの。連邦地方裁判所はマテル社の主張を全面的に退け、敗訴させた。不満なマテル社は第9巡回控訴裁判所に上訴した。上訴審もまた地方裁判所と同じ判断を下し、2003年12月29日マテル社の敗訴となった。ここでも表現の自由とフェア・ユースが私的な権利に優先した結果となったのである。驚くべきことは、控訴裁判所は、被告となったフォーサイスが裁判で支払った弁護士費用(160万ドル相当)をマテル社が負担すべきかどうかについて、これを否定した地方裁判所の判断を差し戻した。マテル社の権利侵害主張には正当な理由がないということだそうだ。大企業といえども提訴するときはご注意あれ!
■判決の内容はこちら(PDF)> http://caselaw.lp.findlaw.com/data2/circs/9th/0156695p.pdf
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