TEXT BY ミドリ・モール(弁護士・ライター)

 裁判の行方 その1 
 フランチャイズ・ピクチャーズの場合

 『隣のヒットマン』などを製作したフランチャイズ・ピクチャーズが、映画製作費を水増し請求したとして、出資元のドイツ企業インターテイメントから訴えられている訴訟(詳しくは第87回および第88回参照)の顛末を追う。
 今年7月16日、インターテインメント社とハリウッドの映画製作会社であるフランチャイズ・ピクチャーズとの間の泥沼訴訟に陪審員の評決が出た。裁判の舞台はロサンゼルス地方裁判所。ドイツのメディア企業であるインターテインメント社が、フランチャイズとその幹部たちを相手に争っていた訴訟は、1億ドルという損害額の大きさもさることながら、フランチャイズの詐欺まがいの資金調達方法に注目が集まった訴訟でもあった。

 ロサンゼルス地方裁判所には、9人の陪審員たちが集まり、10週間に及ぶ審理が行なわれた。そして陪審員たちはフランチャイズ側の詐欺行為と賠償責任を認めた。フランチャイズ側は、7,700万ドルの損害賠償と2,900万ドルの懲罰的賠償をインターテインメント社に対して、支払うよう言い渡した。アメリカの裁判で懲罰的賠償が認められるのは不法行為の中でも“悪質”な場合に限られ、“悪質”な当事者を懲らしめる意味あいが強い。陪審員たちは、フランチャイズの創始者であり会長であるエリー・サマハの詐欺を認め、個人として400万ドルの懲罰的賠償責任を認めた。残りの懲罰的賠償額は、フランチャイズが100万ドル、フランチャイズの関連製作会社16社がそれぞれ150万ドル支払い義務を負う(バラエティ誌から)。総額にして1億ドル以上の賠償額だ。
 事実審理で、サマハは映画製作費をごまかしていたことをさっさと認めた。インターテインメント社には水増しした予算を見せ、実際にはかなり安いコストで映画を作っていたことをも認めた。しかし、それは納得ずくの話だ。サマハいわく、水増し予算はインターテインメント社会長のバリー・ベアスも知っていて、水増しを承知の上で製作費を払っていたのだと。そうなるとベアスも黙っていない。ベアスいわく、有名タレントが主演するスタジオ級の映画を作ることができるといわれて、製作費の47%を負担する約束をしたら、予算を水増してして結局インターテインメント一社でいくつかの映画製作資金を負担していたそうだ。コストをケチれば、やはり結果は見えるもの。安っぽい映画の出来を見て、ベアスは騙されたことに気づいたそうだ。
 フランチャイズ側には上訴という引き伸ばしの術がある。もし、判決が確定しても、相手からお金を回収することができるかどうかは別物。サマハ個人で400万ドルの支払い義務というのはかなり高額だ。もっともドライクリーニング業から、セレブご用達のレストラン、そして映画会社を経営するサマハだから、資金繰りには困らないハズ。豪邸もあるし……。

 気になるのは、7,700万ドルもの損害賠償を支払わなければならないフランチャイズのお台所事情だ。事実審でびっくりするようなことが明らかにされた。フランチャイズには金がない! フランチャイズの弁護士いわく、フランチャイズには1億2,000万ドルもの負債があり、会社の存続そのものが風前の灯火だそうな。当事者たちは否定するが、フランチャイズの企画や資産がどんどんモビウス(Mobius)という製作会社に移されているそうだ。ちなみにモビウスとは、フランチャイズのパートナーたちが作った会社ということ。インターテインメント社は、自社のサイトで勝利を喜び、9月の判決執行を心待ちにしている。しかし訴訟に勝っても、とりっぱぐれ? という怖い結末もありうる。

 インターテインメント社は、フランチャイズの映画に資金融資していた銀行と完成保証ボンド会社をも訴えている。そちらの仲裁裁判は来年の1月4日から始まる。
■エリー・サマハが経営するセレブご用達のレストラン> http://www.seeing-stars.com/Dine2/SunsetRoom.shtml
■サイトで勝利を報告するインターテインメント社> http://www.intertainment.de/en/home.htm
<<戻る


東宝東和株式会社