TEXT BY 庄司由美子

 サンダンス映画祭、サンダンス・NHK国際映画作家賞レポート

 映画ファンなら知らない人はいないサンダンス映画祭。ご存知のように、カンヌやベルリンと並ぶ世界最大の映画祭の一つで、毎年1月、ユタ州のパークシティで開催される。今年は1月16日から26日の開催で、アメリカ内外の個性溢れる映画の上映に加えて様々なイベントやパーティで盛り上がった。この期間、アメリカだけでなく世界各国からセレブリティや映画関係者、映画ファンが集まり、スキーリゾート地として有名なパークシティの人口は一気に膨れ上がる。今回はそのサンダンス映画祭のプログラムの一つ、サンダンス・NHK国際映画作家賞についてレポートする。
 サンダンス映画祭を主催するサンダンス・インスティテュートは、俳優ロバート・レッドフォードの主宰により、1981年にアメリカの独立系映画作家達を応援する主旨のもと設立された。最近は、徐々にアメリカ国外の映画作家達にも目を向けるようになり、このサンダンス・NHK国際映画作家賞は、サンダンス・インスティテュートの国際化の中心を担うプログラムとなっている。

 サンダンスと、その理念に賛同した日本のNHKが協同して、次世代を担う新しい映像作家の発掘と支援を行うというもの。世界の映像文化発展への貢献と文化交流の促進を目指して設立したもので、今回で7年目を迎える。応募の対象となるのは、アメリカ、ラテン・アメリカ、ヨーロッパ、それに日本の4地域からで、各地域1名ずつの優勝者を決定、その製作を支援するというものだ。
NHKレセプションにて。優勝者左からマイケル、富永
さん、イェシム、サンダンスのミシェル、優勝者のホアン・パブロとパブロ。
 審査委員会のメンバーは国際的に有名な映画のプロフェッショナルばかり。次回作の脚本と、過去の監督・演出作品(短編映画、長編映画、CM、ミュージックビデオなど)が審査される。優勝者には賞金と、脚本が映画になった際の日本でのテレビ放映権が保証される。それに加えて、サンダンスやNHKのバックアップがつくということで、世界の映画関係者からも注目してもらえるという、若い映画作家達には大変オイシイ賞なのだ。過去の受賞作品には、『セントラル・ステーション』(ブラジル:ウォルター・サリス、1999年ゴールデングローブ外国語賞)、『彼女を見ればわかること』(メキシコ:ロドリゴ・ガルシア、2000年カンヌ映画祭ある視点賞)、『水の女』(日本:杉森秀則、2002年)などがある。
 私は、大学院を卒業した昨年の5月から、サンダンス・インスティテュートのロスアンゼルス・オフィスで、最愛なるボスのアソシエイト・ディレクター、スーザン・モリスのもとで、この賞のコーディネーター(インターン)として働いている。スーザンのおかげで、この賞の運営すべての業務に関わるという貴重な体験ができたのだが、やはりクライマックスは、サンダンス映画祭への参加。 実際は、食事を取る間もない程の過密スケジュールだった。

 上記4エリアの優勝者達とその関係者を映画祭に招待し、彼らと、サンダンスおよびNHK関係者とのミーティングや、ミラマックス、パンドラ・フィルム、BBCフィルムといったアメリカやヨーロッパの映画配給会社、製作会社、監督達とのミーティングなどをスケジューリングし、レセプション、映画祭授賞式での優勝者発表、その後のパーティなどへの参加など、すべてが迅速に行われるようコーディネートするという、超多忙な毎日。
 2003年度の優勝者は、ラテン・アメリカ部門は、"The Whisky" (ウルグアイ:パブロ・ストール&ホワン・パブロ・レベラ)、ヨーロッパ部門は "Waiting for the Clouds"(トルコ:イェシム・ウスタオグル)、アメリカ部門は"The Motel"(マイケル・カン)、そして日本部門は"WOOL100%"(富永まい)。実に個性的で才能あふれる優勝者達だ。

 応募の時期から選考の期間を経て映画祭の直前まで、電話やメールでやり取りしていたからだろうか、初めて彼らに会った気がしない。彼らの為にこうして今まで働いてきて本当に良かったと感無量。"Thank you for everything."などと言われると、涙が出そうになる。
映画祭授賞式
 NHK主催のレセプションには、俳優のスタンリー・トゥッチ、ダニー・グローヴァー、そして映画『13階段』が正式招待された反町隆史さんもいらしていた。会場は関係者で満員。そして映画祭最終日に行われた授賞式は、マギー・ジレンホールとスティーヴ・ザーンの司会で進行。フィリップ・シーモア・ホフマン、マット・ディロン、スティーヴン・ブシェーミなどのセレブがプレゼンターとして駆けつけ、会場内はインディペンデント・スピリッツ溢れる気取りのない和やかで華やかな雰囲気でいっぱいだ。
 その後のパーティは、雪の中の巨大なクラブに場所を移して開催。私とスーザン、サンダンスNHK賞の優勝者達は我を忘れてワイングラス片手に踊り始め、ダンスフロアには私達を囲む輪が出来るほどだった。年甲斐もなく(?)仕事のストレスと疲れを一気にここで爆発させたようだ。

 この素晴らしい賞を設立当初から支えてきたNHKの上田誠氏、サンダンスのスーザン、フィーチャー・フィルム・プログラムのディレクター、ミシェル・サター氏、エグゼクティヴ・ディレクターのケン・ブレッカー氏らの、世界の若い才能を応援しようという熱意と情熱には本当に心打たれる。彼らとご一緒できて本当に光栄だ。また他にも、この賞の運営に携わったNHKの佃裕美子さん、サンダンスの同僚ラルフや村田千恵子さんのハードワークにも大拍手だ。
アソシエイト・ディレクターのスーザンと筆者
 このサンダンス・NHK賞を通じて、サンダンス・インスティテュートで働けたことは、私の一生の宝だと思う。オフィスの人は皆素晴らしい人達だし、インスティテュート設立からの志がきちんと貫かれているように思う。私が日本人だからといって、日本に関する仕事だけ与えたりはせず、私を、映画を愛し、若い映画作家を応援したい一人として、私の英語のハンデを全く気にせずに、ヨーロッパ、ラテン・アメリカ、ひいては、中近東や南アフリカの映画に関するリサーチなどにも携わらせてくれたことを、心から感謝したい。彼らのおかげで、世界の様々な映画関係者と交流が結べたことも一生の宝。大変な仕事だったけれど、とてつもない達成感で、映画が好きで良かったとしみじみ感じた経験だった。
■サンダンス・NHK国際映画作家賞> http://www.nhk.or.jp/sun_asia/sundance/j/whats_01.html
■Sundance NHK Awards> http://institute.sundance.org/jsps/site.jsp?resource=pag_ex_programs_international_nhk&sk=8i8jfynMxEp4QpcL
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