TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッドを観光しよう! その2

 古い建物には歴史がある。歴史の中にはドラマがある。スクリーンの中に劣らぬ、人々の光と影に包まれた本物のドラマがある。

 今回のレポートは、人々を長い間見つめてきた、あるホテルのご紹介から始めよう。ハリウッドの北部にIvar Avenuという通りがある。そこには、やけに古びた、しかし厳かな雰囲気をかもし出す一つの建物がある。その名は「Knickerbocker Hotel」。現在は高齢者のためのアパートメントになっているが、1920年代「Knickerbocker Hotel」はハリウッドの中心部といえる場所であり、多くの著名人がそこに集まっていた。
 名優ルドルフ・ヴァレンチノはこのホテルのバーによく現れ、ロビーでタンゴを踊った。20世紀の魔術師と謳われた有名なマジシャンにしてオカルトマニアのハリー・フーディーニとその妻べスは、「どちらか先に死んだほうは、霊界から生きているほうにコンタクトを取る」という契約を結んだ。そして、フーディーニが亡くなると妻べスは契約通り毎年ハロウィンに「Knickerbocker Hotel」の屋根の上で降霊術を行った。10年以上もの間、それが続けられたという。しかし、残念な事に一度も降霊には成功しなかったようだ。当時の雰囲気を正確に知ることはできないが、降霊術にふさわしい妖しい雰囲気は今も建物に漂っている。実際、ここのカフェでは、毎年ハロウィンの季節になるとホラーイベントを開催するそうだ。
ホテル:中で写真を撮ったら、何か写るかも……なーんて言っていたら住人に怒られそうだけど。現在も、しっかり使われています。
 建物のインテリアもゴージャスの一言だ。ロビーに飾られている巨大なクリスタルで作られたシャンデリアは、1920年当時で$120,000、現在の物価にして約1億円という代物。ルネッサンス様式で建造された豪華な雰囲気に魅せられたスターは他にも数多くいる。マリリン・モンローは1954年の4月、ジョー・ディマジオとハネムーンでこのホテルを訪れた。また、エルヴィス・プレスリーも映画『Love Me Tender(やさしく愛して)』('56)の撮影中、1016号室に滞在した。その他、フランク・シナトラなどもよく滞在したようだ。その顧客記録はそのままハリウッドの紳士録になっている。

 続いて御紹介するのは、西海岸で最初に設立されたレコード会社「キャピトル・レコード(Capitol Records building)」。ビートルズ、ビーチボーイズ、ピンク・フロイド、フランク・シナトラ、ボニー・ライト、ティナ・ターナーなど、ここから生まれたスターたちを見ればその重要さがわかるだろう。
 1954年に建造されたCapitol Records buildingは、13枚のレコードが積み重なったようなデザインのビルの中にある。1階の壁にはアーティスト、リチャード・ワイアットによる「ハリウッド・ジャズ」というタイトルのイラストが描かれている。特にジャズ界の大御所ナット・キング・コールとビリー・ホリデイの似顔絵はかなり大きく描かれており、ジャズ好きの観光客を楽しませている。残念ながらロビーの中に入ることはできないが、1階のロビーにはピンク・フロイドやビートルズのゴールドディスクが飾られている。また、ビルの前の通りには、チャイニーズシアターの前と同じように、ジョン・レノンなど有名人の名前が刻まれている。
レコード会社:丸い建物というのは、実は使いにくいのでは、と思ってしまうのは僕だけ?
 いつもは映画中心の話題が多くなりがちだが、音楽でも重要な部分を担っているハリウッド。マライア・キャリーなど、大物アーティストによるコンサートや有名ライブハウスも数多くある。映画ファンだけに楽しませるのは勿体無い街かも?
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