TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ムービーマジック ロサンゼルスは、映画の中ではニューヨーク? それとも・・変幻自在の街LA

 昨年の大ヒット映画『スパイダーマン』を覚えているだろうか? トビー・マグワイア扮するスパイダーマンが、ニューヨークの街を飛び回り大活躍する映画だ。高層ビルの間に糸をはって、縦横無尽に飛び回るその迫力に圧倒された人も多いと思う。この映画の成功のカギは、舞台となるニューヨークのエキサイティングな部分とダークな部分をそれぞれ描き出し、この街が持つ奥深さとパワーをうまく表現できた事にある。街を見事に描写する事に成功したからこそ、スパイダーマンというヒーローをより際立たせる事ができた。しかし、この映画における多くのシーンが、実はロサンゼルスで撮影されている。
 ハリウッド映画に登場するほとんどのシーンがスタジオのセットで撮影されていることは、映画ファン読者の皆さんならご存知の方も多いはず。これは、撮影時に使用する巨大な機材や大量のエキストラ(映画の背景に映る人々というのは、どんなに小さくてもエキストラの方々なのだ!)を使って公共の場で撮影するのは、その管理だけで莫大な費用と労力を要する。だから、安全面や機能性などから考えると、すでに映画撮影のために作られたスタジオ内に、街や家などを再現して撮影してしまったほうが安上がりなのだ。
 以前にもレポートしたが、ハリウッドのメジャースタジオ内には少し小さめのニューヨークの街が再現されている。街のシーンはこれらのセットを使って撮られる事が多い。しかし、草原や木々など自然が多く登場するシーンや、本物の雰囲気を重視する監督だったりするとロケーションという選択肢が選ばれる。『スパイダーマン』の場合はこの両方。いや、他にも複雑な要素のもとスタジオでの撮影とロケ撮影がうまく組み合わされて制作されている。だが、それでもハリウッドのスタジオから遠いニューヨークでの撮影というのは極力避けたいのが実状だったのか、ロケという形式を取りながらもロサンゼルスで撮影する方法を取っている。
厳かな雰囲気の漂う立派な建物だ。
 例えば、トビー・マグワイアがNYにあるコロンビア大学に行くシーンがそう。このシーンも実はロサンゼルス。USCの直ぐ裏にあるNatural History Museum (900 Exposition Boulevard, in Exposition Park, Los Angeles, CA. (213) 763-DINO or (213) 744-3466) で撮影されている。この博物館は3階に分かれていて、所有アイテムは1400万にも上るという。中には、カリフォルニアの歴史というセクションでチャップリンの所持品なども展示されている。また、1年中いつでも何らかの花が咲き乱れているという広大なバラ園も所有。『スパイダーマン』の中でコロンビア大学のシーンが撮影されたのはこの脇の、芝生と木々が立ち並ぶ場所だ。このバラ園では、『パールハーバー』の1シーンでジョン・ボイト扮するルーズベルト大統領がホワイトハウスのバラ園で空襲の報告を受けるシーンでも使われている。
 この他、『スパイダーマン』では「ニューヨークのビル街を颯爽と飛んでいくスパイダーマンを見上げる人々」のシーンをロサンゼルスのダウンタウン(5th Street, 4th Street, Spring Street, Mateo Street and Grand Avenue.)で撮影している。
 映画の都ロサンゼルスは、様々な街の代役として使われているのだ。ただ、近年は人件費やロケーション費用の高騰もあり、コストの安いカナダやオーストラリア、アイルランドで撮影が行われることも多くなっている。ハリウッド映画の撮影が行われるということは、それだけの大金が街に流れたり、観光スポットとなるため、各都市とも誘致に躍起になっている。こうした動きに対して、ロサンゼルスは撮影コストを下げるなどして、“客離れ”を防ごうと必死だ。
一度行ってみて欲しい場所!ベルサイユの薔薇の雰囲気が味わえるかも?
 今回は、ロケ案内と合わせて少し映画の舞台裏もご紹介してみましたが、いかがでしたか? また、これからもムービーマジックといわれる「映画の嘘」をご紹介していきますのでお楽しみに。
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