TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 アメリカの大学にある映画学部って、何するの? パート3「プロダクション」

 さて、パート3では、大学での実際の映画製作についてご紹介しよう。大学の映画学部では16mmフィルムを自分で撮影し、それを編集、最後に効果音やセリフなどのいわゆる音入れをして、10分くらいの作品を完成させることが卒業制作となる。学校によって白黒だったりカラー作品だったりする。カラーは当然白黒よりもはるかにコストが高い。

 もちろん、プロになると35mmのカメラも回せなくてはいけないし、その他の技術ももっと深く掘り下げなければ仕事として全く役に立たない。スピードも正確さも、問題の対処方法も、学校での経験などほとんど役に立たないのが現状だ。では、なぜ学校で学ぶのか? 何のために、このようなカリキュラムが組まれているのか? それは、映画に関わる人間は、とにかく自分だけですべてをこなして一本制作し、全体を見渡せる力を身に付ける必要があるからだ。
 昔、スタジオが力を持っていた時代は、会社に入るとどこかの専門部署に配属され、そこでいわゆる下積みをした。この方法は自分の専門には強くなるが、その技術が作品に対し、どのように効果的に反映されるかを理解するのにとても時間がかかった。それこそ、ベテランの域に達しなければ、自分の作り出した照明がどんな効果を表すのか理解できなかった。だが、技術が進み、CGなども入ってきて、映画製作の過程がとても複雑になった現在、スタッフが映画製作のプロセスを知り、完成図をイメージできることはとても重要なのだ。自分のやっている仕事が会社にどういう影響を与えているのか知ることが大事なのと同じだ。
プロ、アマ問わず、自分を磨ける現場にはどんどん飛び込んでいく。こういう姿勢が必要ですね。
 また、全ての部署を一通り経験することによって、映画製作において自分がやりたいことを認識することができる。USCの映画学部でも、この辺を考慮してカリキュラムが組まれている。

 まず、必修の「ビデオ制作クラス」。つい2~3年前までは8mmを使用して映画製作の基礎を学ばせていたのだが、デジタルビデオの登場と、それを支援するジョージ・ルーカスの圧力により、デジタルビデオを使った5分弱の作品を3週間に1度、各自で制作するクラスになった(8mmを使用する学校もまだ多い)。ここでは、まずすべての基本を教わり、実際に制作する。完成品はクラスメイトの前で発表し、皆で批評し合う。

 さて、基礎が終わると、実際の16mmフィルムを使ったクラスになる。フィルムというのはビデオよりもはるかに扱いが難しい。
 ビデオでは、その場で撮った映像を確認する事ができるが、フィルムだとそうはいかない。普通の写真を撮った経験がある方ならお分かりだろうが、フィルムというのは現像するまでちゃんと撮れたかどうか分からない。また、ビデオと違ってしっかり照明をあて、露出を測らないとちゃんとした絵が撮れない。編集も、ハサミでフィルムを切り、テープで貼り付けていくという恐ろしく地味な作業をしなくてはならない。音にしても、様々な効果音をつけて少しでも臨場感を出していかなければならないのだ。このクラスを終了すると、映画製作における基本的なプロセスは完全に理解できる。ここまできたら、自分がどの分野に進みたいか、監督か、カメラか、照明かを考えるのだ。
学校では、技術だけではなく仲間とどうコミュニケーションを取るか、ということを学ぶのも重要だ。
 これらをクリアした後で、最後のクラスに突入する。ここでは、全員が監督になれる訳ではない。まず脚本を選考し、数人の監督を選ぶ。あとの学生はこのプロジェクトにスタッフとして加わる事になる。スタッフも10人以上になり、撮影、プロデュースなど、それぞれの部門に分かれて責任者が立てられる。本当のプロダクションに限りなく近くなるわけだ。

 基礎、中級、大きいプロジェクトの3つのクラスを経ることによって、映画製作とは何かを具体的に理解することができる。もちろん、これらメインのクラスの他にも「写真」「撮影」「音声」「編集」「アニメ」など、ひとつひとつの技術を掘り下げて勉強できるクラスも用意されている。やる事はかぎりなく多い。

 最後にもうひとつアドバイス。学校で学んだ事を「本当の仕事」にしていけるかどうかは、学校という枠を飛び出して、どこまで自分を高めていけるかが勝負になってくると思う。アメリカの大学での映画製作特集、いかがでしたでしょうか。これから留学して映画製作を学びたい、と思っている人の参考になれば幸いです。
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