TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 今、ハリウッドは日本に注目している!?

 最近、大リーグで活躍する日本人野球選手の話題が日本のメディアを沸かせているが、映画界でもティム・バートン監督の『猿の惑星』など、特殊メイクの分野で活躍されている辻さんを筆頭に、日本人特有の細やかな技術を活かしてハリウッドで頑張っている日本人が増えている。しかし、日本そのものにスポットを当てた映画というのは、今まであまりなかった。
 ハリウッド映画全体から見ると、アジア人、特に日本人を必要とする作品は数えるほどしかない。思い返してみても、松田優作が出演したリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』、緒形拳主演、ポール・シュレイダー監督作『MISHIMA』くらいなものだろう。ところが、今年と来年は日本がらみの作品が3作も公開される。今のハリウッドはちょっとした日本ブームなのだ。

 まずご紹介するのは、トム・クルーズが真田広之や渡辺謙と共演することで話題になっている大作ハリウッド映画『ラスト サムライ』。この映画のために、ハリウッドでは多くのアジア人がエキストラとして集められた。単なる留学生が興味本位でエキストラに応募したのに、トム・クルーズと2ショットでの出演となり、多額のギャラを貰ったなんていう話まであるくらいだ。また、キャストだけでなく美術など、日本の文化知識を必要な役職には多くの日本人スタッフが起用された。実際、僕の周りでもこの作品に関わった人間は多い。しかし、これはとても珍しいことなのだ。
ロストイン:なぜか、うちの母さんがエキストラで出演していて驚いた……。
 続いてご紹介するのは、つい最近公開が始まり、次第に上映館数を増やして話題を集めているソフィア・コッポラ監督、ビル・マーレー主演の『ロスト・イン・トランスレーション』。サントリーのCMを撮影するために日本に来たハリウッド俳優が、文化の違いのため右往左往するという、いかにも現実にありそうなコメディ。先日僕も観てきたが、かなり笑えた。これほど現在の日本をまともに描いているハリウッド映画は、今までなかったのではないだろうか? 通常のハリウッド映画と違い、予算もインディペンデント並みで、スタッフ構成も半分以上が日本人。この作品、僕のパートナーもキャスティングアシスタントで参加しているのだが、日米混合のクルーをまとめるのはかなり大変だったようだ。
 そして、皆さんお待ちかね、クエンティン・タランティーノ監督の4作目『キル・ビル』。この作品もいくつかのシーンが日本で撮影され、千葉真一や『死国』『バトル・ロワイヤル』で注目を集めた栗山千明が出演している。栗山千明はルーシー・リュー演じるオーエン・石井のボディーガードの女子高生、GOGO夕張という役を演じる。なぜボディーガードが女子高生なのか。しかも、なぜ名前がGOGO夕張なのか。多分、映画を観てもこの謎は明かされないと思うが、この突っ込み所満載の作品にも、タランティーノならではの日本感が見られるのではないだろうか。

 以上、3作品が相次いで公開されるのだが、学生やインディペンデント映画の分野でも日本を舞台に撮影、もしくは日本人を起用して撮影するというのが最近流行っていて、USCやUCLAの学生からよく相談を受ける。
キル:ビル:カタカナで書いてあるので、なんの映画か分からなかったアメリカ人もいた。
 今、なぜ日本なのか? 正直、本当のことは分からない。しかし、日本製のアニメやゲームで育ってきた世代がいよいよ社会で力を持ち、自己表現をしようとする時、日本は「親しみのある異世界」という魅力的な世界となるのではないだろうか。

 僕達日本人も、自国が海外からどんな感じで見られているのかということは常に気になるところ。今後も日本を題材にした作品が増えていってほしいものだ。ただ、映画は大衆に対して強い影響力をもつ。だから『キル・ビル』のような作品の出現によって、アメリカ人の中に事実と違った日本感が植えつけれられるのが心配ではある。

 日本人にとって、アメリカはとても身近な国。しかし、一般のアメリカ人にとって、日本は我々日本人が思っている以上にまだまだ未知の国なのだ。
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