TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 アメリカの大学にある映画学部って、何するの? 最終回「就職?劇場デビュー?」

 これまでアメリカの大学の映画学科とその内幕をご紹介してきた。日本ではあまり書かれていない情報も結構入れたが、如何でしたでしょうか? 最終回は、一番気になる卒業後の進路について。映画学部を卒業した学生達はどうなるのか? もちろん、ほとんどの学生は映画業界、もしくはTV業界に入ることを希望する。しかし、現実を見てみると実際に希望の職につける学生はほんの一握り。多くの学生は、映像とは全く関係のない職についているのが現実だ。では、どうすればその一握りの学生になることができるのか? 今回はその辺をお教えしよう。
 まず、一口に映像業界と言っても様々な職がある。大きく分けると、監督、カメラや編集などの技術系、ユニーバーサルスタジオやドリームワークスなどメジャースタジオなどで働くオフィス系である。まず、映画学部の学生が一番知りたい「監督になるにはどうすればいいのか?」という質問にお答えしよう。
 これは、一言で表すならば「作品を制作する」ということしかない。考えてみれば、至極当然のことである。しかしながら、この事を認識している学生は意外と少ない。一体、ポートフォリオ(今まで作った作品)なしでどうやってその人の演出力を評価しろというのだろうか? 期限と制約に縛られた学校の宿題程度の作品が自分の才能を示す作品になるというのはまずありえない。

 だから、在学中でも卒業後でも自らの作品を撮り、業界関係者のもとに映画祭などに自ら売り込みに行く事が絶対必要になる。もちろん、このような努力をしても実際に認められるのは1%くらい。信じられないくらい狭き門なのだ。
CAMERA:最初は家庭用ビデオからはじめ、最後はこんなカメラを使うようになる
 ただ、いきなり監督になるのは無理でも脚本を書くことによって監督としての道が開けることもある。サンダンス映画祭で注目を集めた『ドニー・ダーコ』を監督したリチャード・ケリー監督は、USC卒業後に書いたこの脚本をドリュー・バリモアに認められ、監督デビューを果たした。

 ちなみに、昔の日本ではAD(助監督)から監督になるのが定石だったが、アメリカでそのケースは少ない。なぜなら、予定通り撮影が進むよう現場を切り盛りするADと演出を施す監督はまったく別の職種として捉えられているからだ。

 続いて、技術系についてお話しよう。技術系のほとんどは、アシスタントから始めることが基本である。どこかの会社(音響スタジオや編集スタジオ)などに学生時代からインターンとして入り、その仕事を身体で覚える。
『ドニー・ダーコ』:一夜明けたら有名監督?映画を目指すすべての若者に希望を与えた作品だ
 これは、日本とあまり変わりない。ただ、撮影監督や編集として独立する場合は、監督やプロデューサーの指名があって、その作品の担当となるためアシスタントをしながらも、学生映画やインディーズ映画に参加し自分の力を表現する作品を持つことが大切である。ちなみに、技術系で慢性の人手不足なのは、効果音をつけていく音響スタジオだそうだ。

 そして、最後にお話するのはスタジオへの入社の方法である。本気で入社したいのなら、迷わずUSC、UCLA、NYU、もしくはハーバード大学やスタンフォード大学と言った有名校へ入学しよう。メジャースタジオと言うのは、要するに大手の一流企業である。だから、必ずしも映画の知識が必要なわけではない。むしろ映画学部と言うよりビジネスなどを専攻した学生のほうが有利。映画業界の8%がUSCの卒業生(USCパンフレットより)というだけあって、映画学部の有名校はメジャースタジオとかなり太いパイプを持っている。したがって、3大映画学部に入学するのであれば、メジャーで映画、マイナーでビジネスというクラスを取り、良い成績を収めるというのがメジャースタジオへの近道である。僕の友人も、この方法でドリームワークスに入社した。
 これから、映像業界を目指して留学しようとしていた読者の皆さんは今回のレポートを読んでどう思われたのだろうか?大変だなーと思った方も多いだろう。しかし、自分自身が映画作りのために大金を出す立場になって考えて欲しい。どうでもいい奴を雇いたいと思うだろうか? センスがあって、技術があって、経験のある、キラリと光る人材が欲しいと思うはずだ。そんな“キラリと光る”要素を学生時代にどう身に付けることができるか? もしくは、それを表現する技術を持っているか? これが、映画業界に入る秘訣だと思う。第1回でも書いたが、学校だけに囚われない活動を続けて行く事が夢の実現への近道なのだ。
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