TEXT BY 伊藤秀隆(監督/プロデュース/脚本)

 ハリウッドに留学するということ…

 さて、1年ちょっとお世話になったeigaf@nですが、現在製作中の長編映画も完成間近ということで、本業の「映画監督」に戻るため今回の原稿をもって次のライターにバトンタッチする事になりました。まだまだライターとしては未熟な部分があったと思いますが、僕が製作中の映画について書いた時など応援のメールなどを頂いたり、うちのスタッフがかつて読者だったりとeigaf@nを通して単なるライター以上の感動を得る事ができたことを大変感謝しております。今までのコラムが、読者の皆様のお役に立つことがありましたら本当に嬉しく思います。そこで、最後のコラムとして僕が経験した7年間のハリウッド映画留学について、これから同じような道を歩もうとする方々の為に書かせて頂き結びとしたいと思います。
 まず、よく聞かれる質問で「留学をどうしたら成功させられるか?」というのがあります。映画を学ぶための留学は、何をもって成功と言うべきか分らないため、この質問に答えるのは非常に難しい。僕の留学生活も、果たして成功と言えるかどうか分からない。しかしそれでも、言えることはいくつかある。

 まず1つは、「留学のゴールを決めておく」ということ。これは簡単なようで、ほとんどの、特に映画専攻の留学生が考えていない事だ。漠然と「ハリウッドで監督になる」というようなものはあるのだが、「どうやって、そこに行くのか?」という道筋を具体的に決めていない学生が多い。
撮影中はこんな事二度とやるか!と思うけど後でいい思い出になるんだよね
 もちろん、日本にいる間に完全に決めるのは無理だろう。しかし、ほとんどの場合留学を終えるべき時期になっても具体的なゴールが見つかっていない。これでは、ハリウッドはおろか、日本に戻っても映像の仕事にすらつけないだろう。これが、ビジネスなど他の専攻なら大学卒業、MBA取得など、ハッキリした形になって現れる。しかし、映画となると学歴はあまり意味が無い。

 もちろん有名大学なら、TV局や製作会社、専門学校の講師なんて道も無きにしにもあらずだが、多くの留学生が日本を出る前に夢見ていたのは、そんなことではないはずだ。誰しも最初は、映画監督、撮影監督、CGアーティスト、メイクのエキスパートとして世界を舞台に活躍する事を夢見ていたのだ。
 では、その夢をかなえる為には何をするべきか? ハリウッドで何を学ぶべきか? 映像のエキスパートとして社会に通用するためには、何を身に付けて置けば良いのか? これらを常に自分に問いつづける事が『留学を成功させる秘訣』ではないかと思う。ちなみに僕は、この試行錯誤、挑戦と失敗を繰り返した(今も試行錯誤中? )結果、ボランティアの自主体制では限界とも言える規模での長編映画を製作することができた。

 この作品を留学生活の集大成として、プロとしての監督になるための名刺代わりにこれから活用していこうと思う。簡単に言ってしまえば、この作品の受け入れられ方によって僕の留学の成果がでてしまう…と思ったけど、そうでもないな。
eigaf@nの読者がスタッフとしていつのまにか参加していた?インターネットって不思議な出会いを生むんだな
 今、感じるのは必死になって作品を制作し続けて来た中で、出会った仲間や先輩達との信頼関係によるネットワーク、問題を解決しようとする力、様々な文化や人が持つ価値観を理解することなど、ハッキリとは見えないが、何より大切な経験をしたと思う。

 何をもって「成功した留学」というか? それは個人によって違うだろう。しかし、一つ断言できる事は自分が目指す「ゴール」を明確にしておくことだ。そして、そのゴールに近づくために一つ一つの小さな目標をクリアして行く事が夢へと繋がっていけばいいのだ。これから留学する皆さんも、「何となく学校を卒業する」とか「何となく英語を話せる」というような漠然な目標ではなく、自分が本当に信じられる目標に向かって努力して欲しいと思う。そして、僕もあとに続く後輩達に刺激をもらい更に努力を続けて行きたい。1年ちょっとでしたが、ご愛読ありがとうございました。
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