TEXT BY フィーチャープレス 岩下慶一

 レンタルビデオが大統領を決める? 
 マイケル・ムーアの復讐

 アメリカは今、大統領選の真っ盛りだ。来月の今頃はブッシュ大統領が引き続きホワイトハウスに居座るか、ケリー大統領が誕生するかが決まっている筈だが、今のところ両者の支持率は殆ど同じで、どちらに軍配があがってもまったく不思議ではない。
 今回の大統領選、おもしろかったのは映画が大きな役割を果たしたという点。この夏日本でも話題になったマイケル・ムーアおじさんの『華氏911』が全米中の話題をさらったのは皆さんご存知の通り。ドキュメンタリー映画が封切りと同時にボックスオフィス1位に躍り出るなんてことは前代未聞、米国民の興味の強さが知れようというものだ。
 内容はご存知のように徹底的にブッシュ政権をこき下ろしたもので、ブッシュ大統領とクウェートの石油関係者とのコネクションまですっぱ抜いてしまい、ブッシュ大統領にとってはとんでもないダメージ。早く忘れ去りたい映画なのだ。幸い映画の公開から4ヶ月あまり経ち、人々の映画の記憶も薄れはじめた、とりあえずホッ、とブッシュさんが思ったかどうかは知らないが、大統領選まであと1ヶ月を切った今になって『華氏911』がレンタルビデオショップの棚にドーンと並んでしまったからたまらない。まだブッシュかケリーかを決めかねている浮動層がこのビデオを見たら、「あんなヤツに投票するのヤメー」となる可能性は高い。しかもビデオは殆ど貸し出し中の大人気。
レンタルショップにずらりと並んだ『華氏911』。ほとんど貸し出し中。
 映画がビデオ・DVD化されるのは公開から大体3~4ヶ月後なので、別に誰かの陰謀というわけでもないのだが、それにしてもタイミング悪すぎ。更に、頭を抱えるブッシュさんに追い討ちをかけるように、全米のケーブルが『華氏911』を放送し、大ヒットの兆しを見せているのだ。マイケル・ムーア、ついにあの巨体でブッシュ大統領を押しつぶしにかかるのか?
 さて、マイケル・ムーアという予期せぬ援軍を得たケリー候補だが、ムーアがやってるなら俺も、と思ったのかどうか、自分でも映画を作っていた。『GOING UPRIVER THE LONG WAR OF JOHN KERRY』というタイトルで、兵士としてベトナムで戦っていた頃から現在までのケリー候補の人生が描かれているらしい。というのもこの映画、製作に手間取ってしまったのか、今月になってやっと公開されたばかりなのだ。一応DVDのリリース予定は10月19日だが、これでは選挙に間に合わない。これはちょっと痛かったかも。
 大統領選さえも映像によるバトルになってしまうところはさすが映画大国アメリカだが、今現在もテレビの公開ディベートの真っ盛りだ。そしてこれがなかなか面白い。両候補ともなかなか役者なのだ。ブッシュ大統領が手を大きく広げて「皆さん、私がフセインを追い出したのは正解でした」と訴えれば、ケリーも負けじと、みのもんたを思わせるカメラ目線で、「テレビの前の皆さん、よ~く聞いてください。ブッシュ大統領のせいでイラクは泥沼になってしまったのです」とやり返す。ハリウッドでも通用するのではないかと思うほどの白熱の演技である。2人が主演の映画でも撮ったらさぞや見ごたえがあるだろう。その場合、監督はもちろんマイケル・ムーアで決まり!
ケリーの映画『GOING UPRIVER THE LONG WAR OF JOHN KERRY』。ちょっと地味めか?
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