TEXT BY 尾崎佳加

 授賞式シーズンです!! “ロード・トゥー・オスカー” 最終回
 スピーチで振り返る、第77回アカデミー賞授賞式

「この場を借り、この国のために戦い、尊い犠牲を払ってくれた兵士たちに感謝したい。もしかなうなら、時間の許すときに私たちの映画を見て欲しい。ほんの1、2時間かもしれないが、君たちを故郷に連れ帰ってくれるだろう。君たちがどこにいようとも。」
アメリカ映画芸術科学アカデミー、代表取締役フランク・ピアソン

 本年度アカデミー賞でのピアソンのスピーチは、戦場の兵士でなくとも映画が私たちに大きな安らぎを与えてくれる娯楽を超えた存在であることを思い出させてくれた。

 最終回を迎える「ロード・トゥー・オスカー」、今号は授賞式を心に残る受賞者たちのスピーチで振り返ってみたいと思う。


■名誉賞☆シドニー・ルメット(映画監督)
「スピルバーグ、黒澤、スコセッシ、コッポラ、バスター・キートン…。一緒に仕事をしたことがなくても、影響を受けた人は数えきれない。だから僕はすべての映画に感謝したい。おざなりに聞こえるかもしれないが、これが僕にとって本当の気持ちです」

 80歳のベテラン監督は他にも「アイディアをこっそり盗んでしまった人々の名前なんてこの場じゃ言えないし…」と、会場をわかせていた。


■主演女優賞☆ヒラリー・スワンク『ミリオンダラー・ベイビー』
「私はただ女優を夢見ていたトレーラーパークの少女でした。役者として仕事ができ、こうしてオスカーを手にすることなど夢のまた夢でした。(中略)私を信じ、ここまで導いてくれたクリント・イーストウッドに深く感謝します」

 キャストやスタッフ、それに友人まで「まだ言い終わってません!」と、時間オーバーするほどたくさんの名前を挙げたスワンク。涙を浮かべてのスピーチは受賞2度目のおごりを感じさせず、下積み期間の長い女優ならではの感動が伝わった。


■最優秀海外映画☆『海を飛ぶ夢』(スペイン)
「この作品は苦悩の中で生きた男性、ラモン・サンペドロを元に描かれました。彼が死を望んだことは逆に、彼を取り巻く周囲の人々に命を与えました」

 アレハンドロ・アメナーバル監督が代表のスピーチを行い、故ラモン・サンペドロと主演男優ハビエル・バルデムの多大な努力に感謝の意を示した。


■脚本賞☆チャーリー・カウフマン『エターナル・サンシャイン』
「(モニターのスピーチの残り時間を見ながら)29秒、27秒…。あーこれ本当に焦りますね。どこか他を見ないと。えーと、ケイト・ウィンスレット、ジム・キャリーにとても感謝します。(中略)あ、もう時間ですね。もうステージから降りたいですし。ありがとうございました。それから僕の娘に“やあ”って」

 ハチャメチャなスピーチが初々しかったチャーリー・カウフマン。この素晴らしいファンタジックで創造性豊かなストーリーを描いた人に相応しい笑顔が印象的だった。


■主演男優賞☆ジェイミー・フォックス『Ray/レイ』
「(共に製作したアフリカ系アメリカ人たちに呼びかけて)このアフリカン・アメリカン・ドリームを共に生きよう。(客席のオプラ・ウィンフリーがガッツポーズ)素晴らしいじゃないか。君たちが一緒にいてくれて本当に嬉しい。ずっと共に頑張っていこう。(中略)最初に僕に演技を教えてくれたのは祖母だった。“まっすぐ立ちなさい!” “いつも凛とした態度を忘れずに”と怒鳴ったり叩いたり…。とても厳しかったが、僕が言うとおりにした後はいつも優しく話してくれた。“南部の紳士におなり”ってね。今、祖母とはもう夢の中でしか話せない。だから今夜眠るのがとても待ち遠しい。話すことがたくさんあるんだ」

 涙まじりに祖母との思い出を語ったフォックス。教養のある黒人としての誇りをもたせてくれた祖母に熱い感謝のスピーチ。


■監督賞☆クリント・イーストウッド『ミリオンダラー・ベイビー』
「93年、私とともにこの式に出席した母は84歳でした。そして今年、96歳の彼女をここへ再び迎えることができ、とても嬉しく思います。(中略)私自身、この歳で仕事を続けていられることに喜びを感じます。ほら、シドニー・ルメットを見てください。彼は80歳、僕なんてまだまだ子どもじゃないですか」

 若かりし頃は二枚目俳優として主役を張っていたイーストウッド。今は主に監督として、スクリーンの外から映画に愛情を注ぎ続ける生粋の映画人間だ。彼がお母さんほどの歳になっても映画を撮り続けていることを願う。

 以上、本年度アカデミー賞授賞式でも心に残るスピーチを残してくれた受賞者たち。今後もスクリーンを通し、私たちの人生に感動と安らぎを与えてくれることを期待したいですね。
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