TEXT BY 尾崎佳加

 ハリウッドのテレビ事情 5
 悪ノリがすぎる、いきすぎたリアリティーTV
等身大の人間の心理をのぞくことができるリアリティーTV。依然人気は絶大で、まるで数うちゃ当たるとばかりに、アメリカのバラエティー番組の大半がこの視聴者参加型の番組になってしまった。だが最近、視聴率がとれるのをいいことに過激なだけで節度のない内容の番組が目立ちはじめている。
生きたままの昆虫や、動物の内臓を食べて度胸試しをする番組「Fear Factor (フィアー・ファクター)」。怖いもの見たさの心理をくすぐるグロテスクな映像で高視聴率をかせぐロングヒット番組だ。
だが、こんなに過激な番組もマンネリ化すると視聴者の興味はだんだん薄れてくる。更なる刺激を求めて悪趣味な番組づくりで定評のあるFox局が今年はじめにスタートさせた「Who’s Your Daddy? (本当のお父さんはだあれ)」。幼い頃養子に出された姉妹が複数の中年男性の中から本当の父親を当てるという番組だ。生き別れた家族を探すとは「嗚呼 バラ色の珍生」のような「ええ話」的番組に聞こえなくもないが、姉妹が本当の父親を当てたあかつきには1000万円の賞金が渡され、姉妹を上手に“騙す”ことのできたウソの父親にも賞金がでるという番組システムに、養子縁組関連の会社や団体から「非道徳」、「悪趣味」と抗議の電話が殺到したという。
そして今、物議をかもしている番組といえば「The Apprentice(ジ・アプレンティス)」。先シーズンまではNYの不動産王ドナルド・トランプが若いビジネスマンを育成する番組として人気を呼んでいたが、トランプの後継者にあの元カリスマ主婦で前科者のマーサ・スチュワートが抜擢されたから注目を浴びないわけがない。この番組放送局NBCの大胆な決定にアメリカの視聴者の意見は賛否両論。スチュワートは、服役を終えてなお善良な主婦のイメージを保つある意味本当にカリスマな人で、カムバックを心待ちにしていた大勢のファンから出所を祝う声が届いているが、一方で「受刑者にセカンドチャンスを与えるなんてアメリカ人は全く寛大だ」という皮肉混じりの声も聞こえてくる。

視聴率のためならスキャンダルもゴシップもまとめて番組の宣伝にしてしまう、恐るべきハリウッドのテレビ界。その一方で、各局の度を越した悪ノリ動向に敏感になった視聴者たちがやり場のない怒りをまともな番組にぶつけてしまう例も。PBS局が放送する「Postcards from Buster (バスターからの手紙)」という子ども向けアニメ番組がその被害者の一つだ。
この番組は、バスターという主人公のうさぎが旅先で起こった楽しい出来事をストーリー仕立てで紹介するというもの。だが、問題はバスターが旅先でであったある夫婦がレズビアンカップルだったというところ。お父さんのかわりにお母さんが2人いるということを番組内でも隠さず触れているということが「同性愛というマイナーな価値観を子どもに伝えるのは不適切」と論議を生んだのだ。PBSは抗議を受けてすぐ、このエピソードの放送を中止する処置をとったが、番組の広報担当者は「アメリカが現実に多種多様の文化をもつ国ならば、子どもであっても真実を教えるのが正しい」とごもっともな意見で番組の正当性を主張。結局、PBSが同系列の数局で放送を許すことで一件落着となった。

視聴者たちがテレビの放送内容に目くじらを立てはじめたきっかけは昨年のスーパーボールでのジャネット・ジャクソンの胸見せ事件だという。以来、事なかれ主義の放送局は「家族で楽しめる番組」という非常に無難な内容で視聴率の急降下に頭を悩ませている。一部の人の悪行がまじめな人たちに被害をもたらすのはどの世界でも同じなようで。リアリティーTV関係のみなさん、表現の自由を奪わない程度にほどほどに…ね。
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