TEXT BY 尾崎佳加

 ハリウッドを悩ます海賊版DVD


■警察当局も乗り出した大掃討作戦の結果はいかに?
スターの手型で有名なチャイニーズシアターのあるハリウッド通り。映画グッズを並べたお土産屋さんが立ち並ぶこの通りには、なんとなく怪しげな露天商もちらほら。なにやらアヤシイお香やら、パーティーグッズやら、胡散臭い代物を扱うお兄さんたちがたむろしている。そんな中でふと見つけたDVD。手にとって見ると、先週公開されたばかりの最新作ではないか! DVDが出ている訳がないのに、と思ってよく見ると、これがしっかり海賊版、いわゆるPIRATES VIDEOというものだった。
更によくよく見ると、現在公開されている話題作のタイトルが殆どすべて揃っている。一体どうやってDVDを作っているのか、と不審に思いながら1本買ってみることにした。大体1枚10ドルくらい。家に戻ってDVDプレイヤーで再生してみると、んん? 何だか画質がひどく悪い。おまけに音もサイアク、AMラジオみたいで低音が殆ど入っていない。ダメ押しに観客の笑い声まで入っている。何とこのDVD、映画館にビデオカメラを持ち込んでスクリーンを撮影したものなのだ。こんなひどいものを売りつけるとは大した神経だが、このPIRATES VIDEO、今やハリウッドにすっかり定着してしまっている。映画ファンが集まるハリウッド通りはもちろん、観光客多いサンタモニカの街角や、ロサンゼルスのダウンタウンなどでは必ず“売人”が立っていて、「最新作のDVD買わない?」と声をかけてくる。
これらの「最新作」は、映画が公開されるのと同時に出回り、2週間ほどすると消えていく。常に公開直後の作品ばかりを扱っているのだ。パッケージだけを見るといかにも正規のDVDに見える。何も知らない観光客はすっかり騙されてしまうだろう。しかし、これらの海賊版はもともと騙しの目的で作られている訳ではない。映画が公開されてからDVDがリリースされるまで、どんなに早くても3ヶ月はかかる。画質のひどい海賊版でもいいから手に入れたい、という熱狂的な映画ファンは多く、そういう人たちがこれらのアングラマーケットを支えている。画質が悪い事を承知で購入する人々が後を立たないのだ。
それにしても一体全体どうやってこんなビデオを作っているのだろうか。ハリウッドの地元新聞が海賊版製作の現場をレポートした記事を掲載している。それによれば、海賊版製作者たちは、映画が公開されると同時に超小型のCCDカメラを映画館に持ち込み、映画を撮影して工場に持ち帰り、速攻でDVDを製作してパッケージ化、翌日にはDVDが市中に出回っているという事らしい。そこまでやるか? という感じだが、この海賊ビデオ、映画館にとってはメンツに関わる大問題。現在、海賊ビデオ一掃作戦が行われている。
作戦その1/アンダーカバーが観客に混じって映画館に入り、撮影中のところを捕まえる。
作戦その2/街角で販売している所を捕まえる。
どちらも中々骨の折れそうなやり方だが、ロサンゼルスだけで何百という映画館が存在するのでは、撮影現場をおさえるのは不可能に近く、なかなか効果は上がらない。また、街角で販売している売人を捕まえても、製作者までたぐっていくのは難しい。更に、仮に製作者を捕まえたとしても、次々と後発が現れてイタチごっこになってしまう。この辺は麻薬の密売と同じ状況らしい。
海賊版一掃に躍起になるハリウッドは、「海賊版を買ったらあなたも犯罪者です」という強烈なコマーシャルを作ってプレビューの前に上映している。それでも一部の映画ファンは危険をものともせず海賊版に走る。ハリウッドからPIRATESがいなくなる日は当分来ないようだ。
ハリウッドに観光に来て、絶対売っていないレアビデオを見つけたらまず手を出さない方がいい。画質が悪くてお金の無駄遣いだし、買ったあなたも厳密に言えば犯罪者になってしまうのです。
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