TEXT BY 尾崎佳加

 ノーカット解禁! レーティング未指定バージョンDVDが主流へ

迫力の大スクリーンに臨場感あふれるサラウンドシステム。これぞ映画館の醍醐味というもの。いくらホームシアターが進化しても、やっぱり映画館にはかなわない。だがひとつだけ、ホームシアターでしか味わえないことがある。
5月17日、全米のビデオ店の棚を飾った『チーム・アメリカ:ワールド・ポリス』。所せましと並べられた大量のDVDだが、よくよくみると2つのバージョンに分かれている。ひとつはR指定(15歳以下は入場禁止)を受けたもので、劇場で観るのと同じ版。そしてもうひとつは、レーティング審査を受けていない“unrated”(未指定バージョン)だ。
未指定バージョンというのは、劇場でさえ公開できなかった部分を再現したもの。いくら劇場といっても、レーティングの基準に合わせてきわどいセリフや乱暴な描写を削らなければならない。未指定バージョンは、削られた部分を再現した完全版なのだ。調査によると、DVDでは劇場版よりも人気があるらしい。ファンでなくてもカットされるほどの問題シーンを観てみたいと思うもので、『チーム・アメリカ:~』のように両バージョンを同時発売した場合、70~90%の割合で未指定版のほうが売れているそうだ。
ノーカット版DVD。カバーに“unrated”と強調。
映画のレーティング審査を行う全米映画協会(MPAA)の元取締役は、この動向に寄せたコメントで「未指定版の発売は何の問題もない」と語っている。「パッケージできちんと未指定版だということを示していれば購入するかどうかは消費者の選択だ」。批評を恐れて参入をしぶっていた各スタジオも、このお墨付きをもらって新マーケットにようやく乗り出した。
ドリームワークスは青春コメディー『ロード・トリップ』でのシャワーシーンを延長し、アメリカンパイ的H系コメディー『アダルト・スクール』では主演のウィル・フェレルが全裸で街を駆けるシーンを追加。パラマウントもNC-17指定(17歳以下は保護者の同伴要)を受けて大幅にカットした『チーム・アメリカ:~』のセックスシーンを再現したバージョンを製作、「人形劇だし、所詮はmake-believe(つくりもの)なんだしね!」と半ばやけになりながら未指定バージョンにGOサインを出した。
劇場版と区別するため、未指定版はサブタイトルにも工夫がなされている。犯罪者扮するサンタのドタバタ劇『バッドサンタ』は「Badder Santa(もっと性悪サンタ)」になり、70年代を舞台にしたコメディー『アンカーマン』は『Unrated, uncut, & uncalled for!(指定なし、カットなし、お呼びでもなし!)』と3段オチで締めている。
これまでもメイキングや製作者の解説つき作品など特典盛りだくさんのDVDだったが、ホームシアターの普及によるDVD市場の拡大で、版権事業は右肩上がりである。“隠されると観たくなる”消費者の衝動と、表現の自由を手に入れた製作者の満足、どちらもカバーするオールマイティなニュービジネスの誕生だ。素直に喜んでおこう。
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