TEXT BY 尾崎佳加

 人種カルチャーを浮き彫りにする作品群 「LAフィルムフェスティバル 2005」

ロサンゼルスを一言で形容することは不可能に近い。白人、黒人、ヒスパニックにアジア系。多くの人種が移り住むこの街には、その数だけ文化が混在する。
16日から10日間にわたり開催された「Los Angeles Film Festival 2005」。各国の独立系映画製作者から約4千本の応募作品が寄せられるLA最大級の国際映画祭である。今年スクリーニングされた映画はこの中から選りすぐられた263作品。2005年の作品群は昨年よりも人種別の文化を描く作品が目立ったラインナップとなり、「人種のるつぼ」と呼ばれる街を象徴する結果となった。
流しのミュージシャンとして町を巡回し、わずかなチップでその日をしのぐ60代の男性を追ったドキュメンタリー『Romantico(ロマンティコ)』。家政婦やベビーシッターで生計を立てる移民女性たちを描いた作品『Maid in America(メイド イン アメリカ)』。麻薬、誘拐、殺人と、毎日を死と隣り合わせで生きるコロンビア、ラシエラ地区のある家庭を密着取材した『La Sierra(ラ シエラ)』。今年の公開作品で特筆すべきはラテンアメリカ系の文化を描く作品群が非常に目立っていたことだろう。
ロサンゼルス総人口の約46%を占めるヒスパニック系は、同じく46%を占める白人層と同様にもはや人種的マジョリティーだ。彼らのほとんどは貧しさから抜け出すために家族を国に残し、より良い生活を求めてアメリカに移住する。だが学歴も職歴もなく、英語も自由に話せない彼らを待っているのは厳しい現実。重労働に見合わない低賃金のために身を粉にして働き、爪に火を灯すような暮らしをしている。最近は俳優や歌手でも注目を浴びるラテン系アーティストが増え、アメリカのエンターテイメント界はにわかにヒスパニックブームを迎えているが、それがかえってラテンカルチャーの抱える問題を目立たせ、映画製作者の目に留まったのかもしれない。
こうした貧困層を扱った作品は、今までブラックアメリカン・カルチャーの中に多かった。(昨年のLAFF最優秀作『Unknown Soldier』が一例。)今年も同テーマの黒人系映画は多数出品されていたが、ラテン系とは対照的にポジティブなメッセージを込めた作品も登場して話題を呼んだ。
『Rize(ライズ)』はロスの貧困街サウス・セントラルで生まれたダンススタイル“krumping(クランピング)”のパフォーマーたちを主役にした自主映画で、生命に満ち溢れたエネルギッシュなダンス描写が絶大な評価を得ている。ダンサーたちの躍動をそのままのスピードで、映像編集を加えない生映像も迫力があるが、何よりも彼らの人生に対する前向きな姿勢が観るものの心をとらえる。ドラッグや犯罪に手を染めやすいギャング組織の中心地で自分を見失わず、rise(向上)していこうという彼らの飛躍の精神に、貧困に勝利した成功者の誇りを感じるのだ。
こうしたカルチャー色の強い作品たちは、良くも悪くも正確にロサンゼルスを描写している。様々な文化を受け入れる寛容な街を、そしてそれぞれが決して交わることのない人種間の壁の存在を。この街が真のるつぼとなる時代はまだまだ先のようだ。
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