TEXT BY フィーチャープレス 岩下慶一

 目指せハリウッド 頂上を目指す卵たち

この「From L.A.」のコーナーでは、大スターの情報や新作のニュースといった、ハリウッドの最もきらびやかな部分を紹介してきた。しかし、こうした部分はハリウッドという巨大な山の頂上、富士山で言えば雪がかかっている部分のそのまた上の方に過ぎない。その裾野には、華やかなスポットライトを目指して全世界から集まった男女が何万人とひしめいているのである。今回はこうしたハリウッド山のふもとを、ちょっとダークな部分も含めて、紹介してみよう。
今回の水先案内人になってもらうのは、ハリウッドでテレビコマーシャルのディレクターをしているアメリカ人、A・J氏。彼の目標はもちろん劇場用映画を監督することなのだが、そう簡単にチャンスが巡ってくるわけではない。テレビコマーシャルを監督したり、学校で映画の製作について教えたりしながら生計を立てている。言ってみれば、ハリウッド山の中腹ぐらいにいる人だ。彼にハリウッドで俳優を目指す方法を聞いてみた。
「悪いことは言わんから、他に好きなことがあったらそれをやった方がいい。ものすごい忍耐力と、そして“運”が必要だからね」
しょっぱなからこれでは話にならない。もう少しポジティブなアドバイスは…?
「まず、演技の基礎が出来ていなければならない。ちゃんとした発声と、表情づくり、撮影現場のシステムを理解していること。こういうのが出来ていない人はまずオーディションで通るチャンスはないね」
彼によれば、こうした事を学ぶにはアクティングスクールに行くのが早道なのだとか。ロサンゼルスにはそれこそ星の数ほどのアクティングスクールがある。UCLAやUSCには、正規の学科としてパフォーミングアーツ(演劇科)があるし、州立大学にもたいてい演劇の学科がある。プライベートの学校では、超老舗のリー・ストラスバーグやステラ・アドラーのような有名どころから、小さいところでは売れない俳優がやっているプライベートの学校までいろいろだ。中にはもちろん詐欺みたいなところもある。
「俺はプロデューサーの○○だ、なんて言って実はそこら辺の役者崩れ、みたいな学校もたくさんある。まあ、行くんだったらそこそこちゃんとした学校に入ることだね」
しかし、A・J氏によれば、こういう学校に入ったからといって何が保証されるわけでもないという。あくまで取っ掛かりに過ぎず、「そこからは地道にオーディションを受けて、自分で道を切り開いていくしかない」んだそうだ。
ところで、こうして演技を学ぶ役者の卵は一体何人くらいいるのだろう? 学校の数や生徒数から推測すると、単純に1万人くらいはいるのではないだろうか。これに加え、普段は他の職業につきながらオーディションを受けてチャンスを狙う人々をいれると、数万人のハリウッド予備軍が虎視眈々と山の頂上を狙っていることになる。こういう人々にとって一番現実的な仕事は、とりあえず映画やテレビドラマの端役、またはコマーシャルということになる。
「ちょっとした役のオーディションでも、何百人もの応募があるね。そのうち100人くらいを実際に呼んで面接するわけだ。みんな真剣そのものだよ」
彼によれば、こうして小さい役を拾いながら純粋に役者としてだけで生計を立てているのは、数万人のうちの10%にも満たないそうだ。後はアルバイトをしながら何とか生活していくことになる。
「ハリウッドからビバリーヒルズにかけてのスターバックスやレストランのウエイトレスは、女優志望の女の子ばっかりさ」
彼の言葉はそれほど大げさでもない。昼はウエイトレスをして、夜はアクティングスクールに通っているなんて女の子は実に多い。さて、ここから先はまた機会を改めて、いつかまたハリウッドの更にダークな面をご紹介しよう。
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