TEXT BY 尾崎佳加

 新たな時代の到来? ハリウッドのラテン系アメリカ人俳優たち

今年5月、ロサンゼルスにヒスパニック系アメリカ人市長が誕生した。南アメリカ系の移民がロス市長に就任するのは1872年以来、実に133年ぶりだという。これは、ヒスパニック系の人々が行う政治に、白人・黒人系他の人種が信頼を寄せつつあるという移民歴史の新たな進歩を示している。ヒスパニック系の前進は政界だけに留まらない。最近のハリウッドでもめざましい活躍を見せている。
ヒスパニック系はロサンゼルスの人口の約48%を占めている。残りの数字が白人層、アジア人層、黒人層で分かれることを考えるとダントツでマジョリティーの人種だ。ところが舞台がハリウッドになると、彼らの出番はほとんどなくなってしまう。ラテン系の俳優に優れた人材がいないというよりも、全米の文化的背景から見てもやはり勝ち組と言わざるを得ない白人を主人公にする作品がまだまだ圧倒的に多いのだ。
それでも多種多様のテーマに挑み、ジャンルの幅を広げようと門戸を開いたハリウッド。この開門のおかげで、我々アジア人だけでなくラテン系の俳優たちの起用もずいぶん多くなった。
ラテン系とひとくくりにと言っても、その出身国は様々だ。アントニオ・バンデラス(『マスク・オブ・ゾロ』('98)他)、ペネロペ・クルス(『バニラ・スカイ』('01)他)は情熱の国スペインからハリウッドに進出を果たした俳優たち。コロンビア出身のジョン・レグイザモ(『ロミオ&ジュリエット』('96)他)やベネズエラ出身のウィルマー・ヴァルデラマ(『ザット ’70 ショー』(TVシリーズ))は南米からの移民だ。スペイン語訛りの英語がエキゾチックでセクシーなサルマ・ハエック(『フリーダ』('02)他)はカリフォルニア州の南の国、メキシコ出身。明るい褐色の肌が健康的なラテン美女、エヴァ・メンデス(『最後の恋のはじめ方』('05)他)はキューバ系アメリカ人だが、意外な同胞にキャメロン・ディアスがいる。
音楽界ではもっと多くのラテン系アーティストの活躍を見ることができる。クリスティーナ・アギレラ、ジェニファー・ロペスは、ポップという人種に囚われないジャンルに挑戦したことで早くからその地位を不動のものにしている。だが、全米のクラブシーンではポップのような万人受けする作品だけではなく、ラテン文化の色そのままで勝負するラテンラップ・ヒップホップという新ジャンルが確立されつつある。代表的アーティストのフランキー・J、ピットブル、ファット・ジョーらは英語に加え、母国語(スペイン語)による楽曲の中で自分たちの出生、生い立ち、思い、使命を表現する。ハリウッドのラテン俳優よりもこちらのアーティストたちのほうが支持を得ている理由はやはり、歌詞にのせて文化を伝えやすいアートであるということだろう。
ラテン系アメリカ人の女性向け雑誌「Latina(ラティーナ)」。ファッション記事の他にも移民の歴史を紹介するコラムも。表紙はエヴァ・ロンゴリア。
多くの人口を持ちながら、長年自由にオピニオンを叫ぶことができなかった悲しきマジョリティーたち、ヒスパニック系アメリカン。彼らが今のハリウッドで好機の波を逃さずキャッチし、その存在をより大きく叫ぶ日は近いだろう。


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