TEXT BY フィーチャープレス 岩下慶一

 第57回エミー賞レポート

9月18日、全米の注目を集める“テレビのアカデミー”、第57回エミー賞が、ロサンゼルスのシュラインオーディトリアムで発表された。去年は大ヒット番組「エンジェルス・イン・アメリカ」が11部門で受賞するという歴史的記録を打ち立てたが、今年は新作、話題作が多く、評論家たちにも予想が難しい年だった。さて結果は?やっぱり番狂わせがありました。
エミーの場合、オスカーと違ってまだ日本ではまだ未公開の作品が多い。まず主要作品を簡単におさらいしよう。
まずドラマ部門の一押しは、新シリーズの「ロスト」。無人島に墜落した旅客機の乗客数十人が、助け合い、反目しあいながらもサバイバルしていくシリアスドラマだ。
放送開始以来そのショッキングな内容が話題を呼び、あっという間に人気ドラマになった。
これを追いかけるのが、19世紀が舞台のHBOの「Deadwood(デッドウッド)」。ゴールドラッシュの頃の無法地帯DEADWOOD(死の森)が舞台となった、欲望渦巻く人間関係を描いたちょっとバイオレントなダークドラマだ。
その他、日本でもおなじみ「24」、「ザ・ホワイトハウス」、そして、葬儀屋が舞台という意表をついた設定、あちらの世界からの視点をシリアスな人間ドラマに微妙に盛り込んでドラマの世界に変革をもたらした「シックス・フィート・アンダー」。
結果はやっぱりというか当然というか、「ロスト」が作品賞を受賞した。このドラマ、映画もかくやという程の作りこみもさることながら、ストーリー展開も非常に良く出来ていて、毎週目が離せない。無人島での暮らしにパニックになる人々をまとめるリーダーの苦悩、他の人々からいじめられる中東系の乗客、英語の出来ない韓国系の夫婦、麻薬中毒のミュージシャン、まるで現代アメリカの縮図のような登場人物をうまくまとめた快作だ。久々に、毎回絶対見逃せないドラマである。日本でもAXNで10月から公開予定だ。
次に注目のコメディー部門。こちらの本命は「Desperate Housewives(デスパレートな妻たち)。昨年秋に始まって以来、いきなり視聴率トップに躍り出たオバケ番組だ。米国のとある地方都市に住む5人の主婦が主人公の、言わばアメリカ版「金妻」(古いなあ)である。中流家庭の奥様たちの裏の顔をコミカルに描いた問題作で、不倫あり、犯罪あり、はては殺人ありで、スタートと同時にちょっとした社会現象となった。主演の5人ともスターになってしまい、5人のグループショットがニューズウイークの表紙を飾るまでに。今回ノミネートされた主演女優5人中3人までが「デスパレート~」からという点を見ても、人気の程が窺えようというもの。こちらは9月からNHK衛星で公開予定だ。
もうひとつの話題作は、96年に放送開始の「Everybody loves Raymond(HEY! レイモンド)」。スポーツ記者のレイモンドが主人公のほのぼのファミリードラマだ。ちなみにレイモンド役のレイ・ロマーノはコメディー部門の主演男優賞にもノミネートされた。
このほか、日本でも人気のラブコメディー、「ウィル&グレイス」もノミネートされた。
大番狂わせが起こったのはこのコメディー部門。大本命の「デスパレイトな妻たち」を抑えて「ヘイ!レイモンド」が作品賞をかっさらったのだ。視聴者も評論家も「デスパレイト~」の一人勝ちを予想していただけに、会場からはエエッという声があがった(のではないだろうか?)。9年間地道に良質なコメディーを作ってきたベテランが評価された形だが、なにより驚いたのは当の番組関係者。プロデューサーのフィル・ローゼンタールは「いやびっくりしたよぉ。年寄りのことを忘れないでいてくれてありがとう」と正直なコメント。
ちなみに受賞を逃してヤケクソ(デスパレイト)になった“妻たち”は、フェリシティー・ハフマンが主演女優賞を受賞したほか、監督賞もしっかり受賞した。
アメリカのTVドラマというのは、日本では映画に比べてややマイナーな観がある。(例外もあるけれど) ハリウッド映画がワールドマーケットを視野に入れて、他の国の人々も理解できるように注意深く脚本を作っているのに対し、テレビドラマはとりあえずアメリカの国内市場をだけを相手にしているため、アメリカ人でないと理解できない背景設定やジョークを沢山もりこんでいて万人受けしない。しかし、裏を返せば映画では見られない真のアメリカを描いているのがTVドラマなのだ。ちょっとマニアックだが、一度見たらハマること請け合いです。
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