TEXT BY フィーチャープレス 岩下慶一

 売りに出された「HOLLYWOOD」サイン

「世界的に有名なランドマークをあなたの物にするチャンス!」
こんな謳い文句とともに、オークションサイトE―bayにある商品が出品された。
映画の都ハリウッドの丘の上にそびえる、あの「HOLLYWOOD」のマークである。
出品者はダン・ブリス氏という35歳の実業家で、最低落札価格は30万ドル(3600万円)。ニュースはあっという間にメディアに取り上げられ、全米の注目を集めた。
ハリウッドサインが作られたのは今から82年前、1923年の事だ。当初は「HOLLYWOODLAND」となっていて、映画産業とは何の関係もない不動産分譲地の広告だった。やがて、天候に恵まれたカリフォルニアの環境を求めて東海岸からメジャースタジオが流入してくるにつれ、ハリウッドは映画産業の中心地に変貌していく。丘の上のサインも映画の都にふさわしく変えようという事になり、LANDの文字をとっぱらって現在の「HOLLYWOOD」になったのが1943年。その後、1978年に、ロサンゼルス市が風雨に晒されてボロボロになったサインを作り直した。
今から70年位前、オリジナルの「HOLLYWOODLAND」
つまり、厳密に言えば現在のサインは3代目。オークションに出品されたサインは2代目のものらしい。1978年の作り直しの時にブリス氏がロサンゼルス市から買い取ったそうだ。ちなみに、買い取りの値段は1000万円以上だったという。大金をはたいて手に入れたサインを最初は細かい破片に分割し、額に入れたりペンダントにして切り売りしていたブリス氏だが、こんなセコイ商売やってられんぜ、という訳か、残っていた残骸を一気に売りに出したというわけ。
それにしても、30万ドルとはいくらなんでも大きく出すぎではないかと思うが、ブリス氏に言わせればこれでも安い方なのだそうだ。「ハリウッドサインと言えばエッフェル塔や自由の女神と並ぶアメリカの代表的な建造物ですよ。エッフェル塔が30万ドルで買えますか?」とうそぶくブリス氏。まあ言われてみれば確かにそうなんですが…。
ところが今月になって、更に驚くべきニュースが伝えられた。果たしてほんとに30万ドルで売れるものかといぶかしんでいる人々を尻目に、サインは45万ドル(5400万円)で落札されちゃったのである。落札者の名前は明らかにされていないが、お金って、あるところにはあるものなんですね。
それにしてもこのサイン、ニュース映像でちらりと写ったものを見る限りでは、殆どただの残骸にしか見えない。しかも一部はブリス氏が切り刻んでしまっている。一体新しい所有者は、このガラクタ(失礼)をどうするつもりなのだろう?まさかガレージにしまっておくつもりでもあるまい。ある日突然世界のどこか、まったく予期しないところに、HOLLYWOODの文字が出現するのかもしれない。
一方、思わぬ大金を手にしたブリス氏。映画プロデューサーでもある彼は、これを資金にエルビス・プレスリーのドキュメンタリー映画を製作するのだそうである。
相変わらず話題に事欠かないハリウッド。またひとつ新しい伝説が生まれたようである。
80年間以上もLAの街を見下ろしてきたサイン
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