TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ニューヨーク最新事情あれこれ

 楽しくもせわしないホリデー・シーズンも終わり、ニューヨークもいよいよ本格的に2003年の幕を開けた。今回はムービー・シーンにも影響を与えそうなニューヨーク最新事情あれこれをまとめてリポート!
 昨年末の新聞に、ウーピー・ゴールドバーグとスーザン・サランドンを起用した一面広告が掲載された。ニューヨーク市が貧しい人へ配布する食料品のための寄付金を募るものだ。ウーピーは大胆にも地下鉄内のホームレスを演じており、手に持った紙切れには「食べ物(を得る)ための仕事をします」と書かれている。

 90年代は好景気に沸いたアメリカだが、さすがに後半になって不況の気配が漂い始め、そこへ一昨年の9.11テロ事件が起き、ニューヨークの失業率は一気に跳ね上がってしまった。したがって真面目に働きたい人もなかなか職が得られず、食事にも事欠いているということを表しているのだ。一方のスーザン・サランドンは高価なレザーのコートに身を包み、手には「プリーズ、ヘルプ」のメッセージ。一見、不自然に思えるが、これはショービズ界も含め、かなり収入の良い仕事についていた人ですら、いきなりレイオフされてしまい、最悪のケースでは住むところさえ失っているということを表している。広告の片隅には「ニューヨークの5人に1人が飢えている」と書かれている。
ウーピー・ゴールドバーグが、働きたくとも仕事を見つけられないホームレスを演じる寄付金広告
 これほどまでの不景気の中にあるニューヨークだが、それをなんとか乗り切ろうという策もあれこれ練られている。そのひとつはWTC跡地の再開発。すでに9つのプランが発表されており、採用案を検討中だ。再開発に反対している犠牲者の遺族もいるものの、いずれかのプランが採用されることとなっている。どれもかなりユニークというか、風変わりなデザインの高層建築物で、完成すれば良くも悪くも新たなニューヨークのシンボルとなり、多くの映画に登場することだろう。
 またニューヨークは2012年の夏期オリンピックのアメリカ候補地にも決定済み。一般的には、オリンピックを開催すれば大量の観光客を誘致できることから、開催地の経済の活性化につながるとされている。
 しかしニューヨーカーの中には「財政難の中、投資額が大きすぎる」「狭いニューヨークに大量の人が押し寄せたら交通がマヒする」「大規模なイベントを行えば再びテロの標的となる」と懸念する人も多い。他にはパリ、モスクワ、トロントなどが立候補しそうな様子で、最終結果は2005年まで待たなければならない。それまでニューヨーク市は盛大なキャンペーンを行うが、ニューヨーク出身のアクターやミュージシャンなどのセレブがキャンペーンに登場することも充分にあり得るだろう。

 ニューヨーク市の財政難の穴埋め策のひとつとして、ブルームバーグ市長はタバコ税を猛烈に上げた。その結果、現在はタバコ1箱が約7ドルとなり、おかげで愛煙家たちはインターネットで安価なものを通販したりと大わらわ。このブルームバーグ市長、実は大のタバコ嫌いで知られており、ついにはバーでの禁煙条例にも署名した。
スーザン・サランドンが演じているのは、不景気で失業したショービズ・パーソン?
 これによって今年3月30日より、ニューヨーク市ではレストランに加え、ほぼすべてのバーでもタバコが吸えなくなる。ということは、ニューヨークを舞台にした映画でも、主人公が薄暗いバーの片隅でクールに煙をくゆらすといったシーンはなくなるということ?これはちょっと寂しいかもしれない。

 こうして並べてみると、ニューヨークがまだまだ9.11事件の後遺症に悩まされていることがよく分かる。しかし、なかにはポジティブな話題もあり、少しでも財政を潤したいニューヨーク市は、以前なら許可を出さなかった場所での映画ロケにもOKを出していると聞く。また事件のためにいったんは激減したブロードウェイの興業収入だが、2002年は奇跡的な復活を遂げている。最後に、なんとなくラッキーを呼びそうな話題。昨年、北米だけで4億400万ドルもの興行収入を上げて2002年1位、および歴代5位の記録を樹立した『スパイダーマン』は、ニューヨークを舞台にした作品である。
■WTC跡地の再開発プラン> http://www.imagineny.org/


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