TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ちょっと寂しい1月のブロードウェイ・トピックス

 昼間ですら氷点下の寒い日々が続くニューヨーク。それでなくとも1月はクリスマスにお金を使い果たしたニューヨーカーは家にこもり、観光客も少ない時期です。ブロードウェイもちょっと寂し気ですが、その中から最新の話題をあれこれお届けします。


■ブロードウェイの天才似顔絵師のが他界
 先週から新聞や雑誌のアート欄を賑わせているのは、ブロードウェイ・スターの似顔絵を75年間に渡って描き続けた偉大なるカリカチュリスト(似顔絵師)、アル・ハーシュフェルド。彼の名前に聞き覚えのない人も、独特の曲線で描かれた作品には見覚えがあるはず。そのハーシュフェルドが1月20日、99歳で他界したのだ。
 1903年にセントルイスに生まれたハーシュフェルドは12歳のときに家族と共にニューヨークに移住し、初めてショーを観る。以来、ブロードウェイに夢中になり、スターの似顔絵を描くようになったという。1928年に初めて作品がニューヨーク・タイムズ紙に掲載され、以後ハーシュフェルドは膨大な数のショーを見続け、そして似顔絵を描き続けた。その対象はライザ・ミネリなどのブロードウェイ・スターのみならず、映画スター、TVタレント、時にはエアロスミスなどのロックバンドにまで及んだ。
 驚異的なデッサン力に裏打ちされた優雅な曲線のタッチから“線の王様”“ペンで踊るダンサー”と賞賛されたハーシュフェルドは、おそらく唯一の“歌わない、踊らない”ブロードウェイ・アイコンだった。しかし99歳という大往生であったことから、ブロードウェイ関係者やファンもその死を悲しむというよりは、「永年、素晴らしい似顔絵をありがとう」といった心持ちのようだ。


■レ・ミゼラブル閉幕へ
 1987年3月12日に幕を開け、16年間で計6,612公演を行ったロングラン・ミュージカル『レ・ミゼラブル』が、3月15日、遂にその幕を閉じる。

これは『キャッツ』に次ぐ、ブロードウェイ史上2番目の長寿記録。

 ちなみに『レ・ミゼラブル』『キャッツ』、そしてもう1本のロングラン『オペラ座の怪人』は、すべてキャメロン・マッキントッシュのプロデュース作品で、これはかなりの偉業と言えるだろう。


■ダンス・オブ・ザ・ヴァンパイアズも閉幕
 制作費に1,200万ドルをかけ、大々的にプロモーションを行った期待の新作『ダンス・オブ・ザ・ヴァンパイアズ』が、幕開けからたった1ヶ月半の1月25日にクローズしてしまった。なんでも1日の上演費用60万ドルに対して売り上げは50万ドルしかなく、制作者は出資額のすべてを失ったとか。
 この作品はロマン・ポランスキー監督の映画『吸血鬼』('67)が原作。1997年にポランスキー自らの演出によりウィーンで舞台化したところ、高い評価を得、そこで今回のブロードウェイ公演と相成った。主役には、14年前に『オペラ座の怪人』で喝采を浴びたものの、その後は大きな役が回ってこず、いわばブロードウェイの一発屋的存在となっていたマイケル・クロウフォードを抜擢。“ニュー・ミュージカル”と銘打ち、ロック調の斬新な歌とダンスを取り入れたのだが、幕開けからレビューは芳しくなく、あっけない終演となった。


■デフ・ポエトリー・ジャム on ブロードウェイ
 ヒップホップ世代の詩人によるパフォーミング・アート“ポエトリー・リーディング”がブロードウェイに進出してきた。これはケーブルTV局HBOで放映されていた同名番組をブロードウェイに持ち込んだもの。
 仕掛人は、デフ・ジャム・レコードの総帥兼ストリートファッション・ブランド:ファットファームのオーナーで、ヒップホップ界のオピニオン・リーダーでもあるラッセル・シモンズ。

 黒人、ラティーノ、白人、アジア系の9人の若き詩人がヒップホップDJを従え、演劇的要素を加えた詩の朗読という斬新なステージを披露している。これはヒップホップ・カルチャーのメインストリームへの進出がもはや止められない勢いであることを物語っていると同時に、ブロードウェイ側にとっても、新しい客層を開拓するチャンスとなっている。


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