TEXT BY 堂本かおる(フリーライター)

 ブロードウェイの楽譜屋コロニー

 ブロードウェイ業界人にとって、なくてはならない貴重な“楽譜屋”がコロニーだ。今年で創業55周年を迎えるこの老舗には、俳優、ミュージシャン、コレクターから観光客までが押し寄せる。今回はコロニーの歴史と店内をご紹介!
 ブロードウェイと49丁目の角に、演劇・音楽業界人なら知らぬ者はないシート・ミュージック(楽譜)の専門店コロニーがある。店内には新旧ミュージカルはもちろん、ジャズ、R&Bからロック、子供向け楽曲に至るまで、ありとあらゆるジャンルの楽譜が並んでいる。またミュージカルのサントラCDの豊富さにも驚かされる。ちなみに『美女と野獣』のサントラは6ヵ国語を揃えているという。

 この品揃えから分かるように、この店のコアな客層はなんといってもショービズ・ピープル。
この界隈を歩いている人にはショービズ関係者が驚くほど多い
 もちろん、習いたてのギターをプレイしてみたいティーンエイジャーがロックバンドの楽譜を買いに来ることもあるけれど、ブロードウェイ作家が新作のアイデアを得るために古いミュージカルの楽譜を買いに来たり、ステージ・ミュージシャンが練習用の楽譜を買いに来たりする店なのだ。
 またコロニーはミュージカルやスタンダード・ナンバーのカラオケCDも大量に揃えている。これはオーディションを受けることによって役をゲットしていくブロードウェイ・アクターたちの必需品。ここでCDを買って練習し、オーディション当日もそのCDを持ち込み、審査員である監督やプロデューサーの前で歌うのだ。

 オーナーのリチャード・ターク氏によると、コロニーはそもそもは1948年に52丁目の、今もあるジャズクラブ“バードランド”の向かいにオープン。当時はこの界隈にジャズクラブが密集していたことから、52丁目は別名“スウィング・ストリート”と呼ばれており、通りを歩けばマイルス・デイビスやチャーリー・パーカーとすれ違うことが出来たそうだ。やがて初代オーナーが高齢となって店の経営を維持していくことが困難になった時にターク氏が買い取り、1970年に現在の場所に移転。
最新ミュージカルの楽譜コーナーに立つスタッフのデニスさん。今も脚本を書いているとか
 さらに昔、23丁目のブロードウェイと6番街の間は“ティン・パン・アレイ”と呼ばれていたことも話してくれた。なんでも1940年代頃までは“ヒット・ソング”とはレコードが大量に売れた曲ではなく、楽譜が売れた曲のことを指していたとか。したがって当時はたくさんの楽譜出版会社があり、それらがオフィスを構えていたのが23丁目=別名ティン・パン・アレイ。そこから、やがて楽譜出版業界のことをティン・パン・アレイと呼ぶようにもなった。
 しかし、エルビス・プレスリーの登場と共にレコードの時代となり、23丁目の楽譜出版会社もいつしか消えていったとのこと。その結果、今ではマンハッタンでも楽譜を売る店が減ってしまい、だから業界人にとってコロニーは、なくてはならない存在となっている。

 コロニーが誇る商品は楽譜とサントラ&カラオケCD以外に、もうひとつある。それは膨大な数のコレクターズ・アイテム。あらゆる有名人グッズが店内に所狭しと飾ってある。例えばフランク・シナトラのコーナーには、オリジナルのポスターやサイン入りのブロマイド、果てはシナトラ・ブランドのスパゲッティ・ソースまである。(シナトラはイタリア系だ)
シナトラのコレクターズ・アイテム。他にもバーブラ・ストライザンド、マリリン・モンローなどのコーナーがある
 ビートルズ・コーナーには1966年の日本公演のオリジナル・チケットがあり、これはなんと1,500ドル。他の有名ロック・ミュージシャンのサイン入りギターも店内の壁にぎっしりと並んでいる。
 映画関連も『風とともに去りぬ』('39)の公開時に作られた貴重なスカーレット・オハラのペーパードール(1,200ドル!)から、『スター・ウォーズ』シリーズのオタッキーなグッズまで、眺めるだけでも充分に楽しい。

 これらのコレクターズ・アイテムは、20年間に渡ってオークションでコツコツと買い集められたもの。一品ずつ丁寧に解説してくれたデニスさんを始め、スタッフ全員が元または現役の役者や業界関係者。商品の豊富さだけではなく、スタッフの専門知識と親切なアドバイスもまた、コロニーが永年に渡ってブロードウェイで愛されている理由のひとつだ。
あらゆるジャンルの楽譜がぎっしり
Colony Music Center
1619 Broadway (@49th St.)
tel: 212-265-2050
fax: 212-956-6009
■コロニーHP> http://www.colonymusic.com


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